【2020年民法改正】多数当事者の債権及び債務(保証債務を除く。)【勉強ノート】

改正のポイント

 不可分債権や不可分債務の定義が改められました。また,新たに連帯債権に関する規定が設けられました。さらに,絶対的効力事由・相対的効力事由も見直されるなど,改正事項は多岐にわたっています。

概念整理

旧法 新法

【427条】(分割債権及び分割債務)
数人の債権者又は債務者がある場合において,別段の意思表示がないときは,各債権者又は各債務者は,それぞれ等しい割合で権利を有し,又は義務を負う。

【428条】(不可分債権)
債権の目的がその性質上又は当事者の意思表示によって不可分である場合において,数人の債権者があるときは,各債権者はすべての債権者のために履行を請求し,債務者はすべての債権者のために各債権者に対して履行をすることができる。

【430条】(不可分債務)
前条の規定及び次款(連帯債務)の規定(第四百三十四条から第四百四十条までの規定を除く。)は,数人が不可分債務を負担する場合について準用する。

【432条】(履行の請求)
数人が連帯債務を負担するときは,債権者は,その連帯債務者の一人に対し,又は同時に若しくは順次にすべての連帯債務者に対し,全部又は一部の履行を請求することができる。

【427条】(分割債権及び分割債務)
数人の債権者又は債務者がある場合において,別段の意思表示がないときは,各債権者又は各債務者は,それぞれ等しい割合で権利を有し,又は義務を負う。

【428条】(不可分債権)
次款(連帯債権)の規定(第四百三十三条及び第四百三十五条の規定を除く。)は,債権の目的がその性質上不可分である場合において,数人の債権者があるときについて準用する。

【430条】(不可分債務)
第四款(連帯債務)の規定(第四百四十条の規定を除く。)は,債務の目的がその性質上不可分である場合において,数人の債務者があるときについて準用する。

【436条】(連帯債務者に対する履行の請求)
債務の目的がその性質上可分である場合において,法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債務を負担するときは,債権者は,その連帯債務者の一人に対し,又は同時に若しくは順次に全ての連帯債務者に対し,全部又は一部の履行を請求することができる。

同一の債務の目的について複数の債務者が存在する場合

 同一の債務の目的について複数の債務者が存在する場合としては,分割債務連帯債務不可分債務があります。

 これまで不可分債務は,「その目的が性質上可分であるが当事者の意思表示によってその目的が不可分とされた債務と,その目的が性質上不可分である債務」と定義されていました。

 しかし,本改正により,不可分債務は,単に「その目的が性質上不可分であるもの」と再定義されました(新法§427,430,436)。

 「その目的が性質上可分であるが当事者の意思表示によってその目的が不可分とされた債務」については,連帯債務に組み入れられました。

 したがって,新法下では,分割債務,連帯債務,不可分債務は次のように定義されることになります。

分割債務 その目的が性質上可分であり,法令の規定等がなく,各債務者にその目的が分割される債務
連帯債務 その目的が性質上可分であり,法令の規定又は当事者の意思表示に基づき各債務者のそれぞれが債権者に対し全部の履行をすべき債務
不可分債務 その目的が性質上不可分である債務
「不可分債務」再定義の理由

(1) 従来,不可分債務とされていたものの一部が連帯債務に組み入れられた理由は,連帯債務の方が,債権者が死亡し,その債権を債務者の一人が相続した場合の処理が簡明であることにあります。

(2) 性質上可分な100万円の支払債務があるとします。まず,これが当事者の意思表示によって,不可分債務とされた場合の処理は,旧法下では,次のようになっていました。

 ①債権者が死亡し,不可分債務者の一人がその債権を相続承継した場合,当該不可分債務者は,他の不可分債務者から100万円全額の支払を受けることができます(旧法§430・429Ⅱ)。かかる混同は,他の不可分債務者に影響を与えないからです。②しかし,各不可分債務者の間には負担部分が存在するため,他の不可分債務者は,相続承継した不可分債務者に100万円全額を支払った後,当該不可分債務者から自己の負担部分に相当する額について返還を受ける必要があります(旧法§430・442)。このような処理はいかにも煩雑です。

(3) 他方,前記支払債務が当事者の意思表示によって,連帯債務とされた場合の処理は,次のようになります。

 債権者が死亡し,連帯債務者の一人がその債権を相続承継すると,債権を相続した連帯債務者は弁済したものとみなされます(旧法§438)。その結果,他の連帯債務者としては,相続承継した連帯債務者に対し,自己の負担部分に相当する額の支払をすれば足りるということになります(旧法§442)。

 不可分債務とされた場合のように,他の債務者が相続債務者に一旦全額支払ってから,相続債務者から自己負担部分に相当する額の返還を受けるという二段階のプロセスを経る必要はなく,他の債務者が相続債務者に自己負担部分に相当する額を支払うという一段階のプロセスを経れば足りるため,処理は簡略です。

(4) そこで,従来,不可分債務とされていたもののうち,性質上不可分でないものについては,連帯債務に組み入れることにしたのです。

同一の債権の目的について複数の債権者が存在する場合

 旧法では,同一の債権の目的について数人の債権者がある場合について,分割債権不可分債権とが定められていました(旧法§427,428)。

 ところが,新法では,連帯債権が新たに規定されました。

 また,不可分債権の定義も再定義され,従来,「その目的が性質上可分であるが当事者の意思表示によってその目的が不可分とされた債権と,その目的が性質上不可分である債権」との定義が,単に「その目的が性質上不可分である債権」へと改められました。

 「その目的が性質上可分であるが当事者の意思表示によってその目的が不可分とされた債権」については,連帯債権に組み入れられた形になります。

分割債権 その目的が性質上可分であり,法令の規定等がなく,各債権者にその目的が分割される債権
連帯債権 その目的が性質上可分であるが,法令の規定又は当事者の意思表示に基づき各債権者のそれぞれが債務者に対し全部の履行をすることができる債権
不可分債権 その目的が性質上不可分である債権

連帯債権

 前述のとおり,新法では,連帯債権に関する規定が新設されました。以下,順に新設された規定をみていきましょう。

成立要件

【432条】(連帯債権者による履行請求等)
 債権の目的がその性質上可分である場合において,法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債権を有するときは,各債権者は,全ての債権者のために全部又は一部の履行を請求することができ,債務者は,全ての債権者のために各債権者に対して履行をすることができる。

 連帯債権は,①その目的が性質上可分なものについて,②法令の規定又は当事者の意思表示によって成立するものとされています(新法§432)。

効果等

履行請求・弁済

【432条】(前掲)

 各連帯債権者は,単独で,全ての債権者のために全部又は一部の履行を請求することができます。

 また,債務者は,全ての連帯債権者のために,各連帯債権者に対して履行をすることができます。

 このように履行請求弁済は,絶対的効力事由です。

更改・免除

【433条】(連帯債権者の一人との間の更改又は免除)
 連帯債権者の一人と債務者との間に更改又は免除があったときは,その連帯債権者がその権利を失わなければ分与されるべき利益に係る部分については,他の連帯債権者は,履行を請求することができない。

 更改及び免除についても,絶対的効力事由です。

相殺

【434条】(連帯債権者の一人との間の相殺)
 債務者が連帯債権者の一人に対して債権を有する場合において,その債務者が相殺を援用したときは,その相殺は,他の連帯債権者に対しても,その効力を生ずる。

 相殺についても,絶対的効力事由です。

混同

【435条】(連帯債権者の一人との間の混同)
 連帯債権者の一人と債務者との間に混同があったときは,債務者は,弁済をしたものとみなす。

 混同についても,絶対的効力事由です。

相対的効力の原則

【435条の2】(相対的効力の原則)
 第四百三十二条から前条までに規定する場合を除き,連帯債権者の一人の行為又は一人について生じた事由は,他の連帯債権者に対してその効力を生じない。ただし,他の連帯債権者の一人及び債務者が別段の意思を表示したときは,当該他の連帯債権者に対する効力は,その意思に従う。

 前述のとおり,①履行請求,②弁済,③更改,④免除,⑤相殺,⑥混同については,絶対的効力ですが,それ以外は相対的効力です。

 ただし,他の連帯債権者の一人及び債務者が別段の意思を表示したときは,当該他の連帯債権者に対する効力は,その意思に従うことになります。

 ちなみに,絶対的効力が生じる①~⑥について,色々語呂合わせも考えられそうですね。

 パッと思い付いた語呂合わせは,「米騒動便利」っていう語呂合わせです笑

 シチュエーションが不明ですが,語呂合わせなんてこんなものでしょう笑

連帯債務に関する改正

連帯債務者の一人について生じた事由の効力に関する改正

履行の請求

旧法 新法
【438条】(連帯債務者の一人に対する履行の請求)
連帯債務者の一人に対する履行の請求は,他の連帯債務者に対しても,その効力を生ずる。
削除

 履行請求を絶対的効力事由としていた旧法§434は削除されました。

 連帯債務者が複数いる場合,その連帯債務者間の人間関係の密接さは様々です。連帯債務者間の人間関係が密ではない場合も少なくありません。それにもかかわらず,連帯債務者の一人に対して履行の請求を行うことで,他の連帯債務者に対しても,その効力が及ぶとすれば,当該他の連帯債務者は,知らないうちに履行遅滞に陥ってるなど,不測の損害を被るおそれがあります。そういうわけで,旧法§434は削除されたのです。

 したがって,新法では,履行請求相対的効力事由です(新法§441本文)。

相殺

旧法 新法

【436条】(連帯債務者の一人による相殺等)
1項:連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有する場合において,その連帯債務者が相殺を援用したときは,債権は,すべての連帯債務者の利益のために消滅する。

2項:前項の債権を有する連帯債務者が相殺を援用しない間は,その連帯債務者の負担部分についてのみ他の連帯債務者が相殺を援用することができる。

【439条】(連帯債務者の一人による相殺等)
1項:連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有する場合において,その連帯債務者が相殺を援用したときは,債権は,全ての連帯債務者の利益のために消滅する。

2項:前項の債権を有する連帯債務者が相殺を援用しない間は,その連帯債務者の負担部分の限度において,他の連帯債務者は,債権者に対して債務の履行を拒むことができる。

 旧法§436Ⅱでは,ある連帯債務者が相殺を援用しない間は,その連帯債務者の負担部分についてのみ他の連帯債務者が相殺を援用することができるとしていました。

 しかし,新法§439Ⅱは,他の連帯債務者は,相殺を援用しない連帯債務者の負担部分の限度において,債権者に対して債務の履行を拒むことができるとするにとどめました。

 他人の債権を相殺に供することまで認めるのは,相殺権を有する連帯債務者の財産管理権に対する過剰な介入となり,妥当でないと考えたためです。

免除

旧法 新法
【437条】(連帯債務者の一人に対する免除)
連帯債務者の一人に対してした債務の免除は,その連帯債務者の負担部分についてのみ,他の連帯債務者の利益のためにも,その効力を生ずる。
削除

 債務免除を絶対的効力事由としていた旧法§437は,新法では削除されました。

 債務を免除した債権者が,必ずしも他の連帯債務者との関係でも債務を免除する意思を有しているとは限らないからです。

 したがって,新法では,債務免除相対的効力事由です(新法§441本文)。

時効の完成

旧法 新法
【439条】(連帯債務者の一人についての時効の完成)
連帯債務者の一人のために時効が完成したときは,その連帯債務者の負担部分については,他の連帯債務者も,その義務を免れる。
削除

 時効の完成を絶対的効力事由としていた旧法§439は,新法では削除されました。

 時効の完成が絶対的効力事由であるとすると,債権者は,全ての連帯債務者との関係で消滅時効の完成を阻止する措置をとらなければ,特定の連帯債務者との間でも債権の全額を保全することができず,債権者に過大な負担を課すことになり,妥当でないからです。

 しかも,新法では,前述のとおり,履行請求に相対的効力しか認めないこととしました。そうすると,債権者としては,時効の完成を阻止するためには,全ての連帯債務者に対し,裁判上の請求をするなど,きわめて重い負担を課されることになります。

 そういうわけで,時効の完成相対的効力事由とされたのです(新法§441本文)。

 

 なお,時効の完成猶予・更新について,勉強したい方はこちらもご覧ください。

相対的効力の原則とその例外

旧法 新法
【440条】(相対的効力の原則)
第四百三十四条から前条までに規定する場合を除き,連帯債務者の一人について生じた事由は,他の連帯債務者に対してその効力を生じない。
【441条】(相対的効力の原則)
第四百三十八条,第四百三十九条第一項及び前条に規定する場合を除き,連帯債務者の一人について生じた事由は,他の連帯債務者に対してその効力を生じない。 ただし,債権者及び他の連帯債務者の一人が別段の意思を表示したときは,当該他の連帯債務者に対する効力は,その意思に従う。

 絶対的効力事由とされているのは,履行・更改・相殺・混同のみです(新法§441本文・§438・§439Ⅰ・§440)(※)。しかも,連帯債務者は,他の連帯債務者の相殺権を援用することはできず,当該他の連帯債務者の負担部分を限度として,自身の連帯債務の履行を拒むことができるにとどまります(新法§439Ⅱ)。

 新法では,履行請求・債務免除・時効完成を含め,履行・更改・相殺・混同以外は相対的効力とされました(新法§441本文)。

 ただし,債権者及び他の連帯債務者の一人が別段の意思を表示したときは,当該他の連帯債務者に対する効力は,その意思に従うものとされています(同条但書)。

 このような意思表示があるときは,債権者や当該他の連帯債務者に絶対的効力を及ぼしても,不意打ちとならないからであると説明されています。

 

※ 新法§441本文は新法§436を除外していませんが,解釈上,弁済等の履行も絶対的効力事由であると解されています。

破産手続開始決定を受けた場合の債権者の配当加入

旧法 新法
【441条】(連帯債務者についての破産手続の開始)
連帯債務者の全員又はそのうちの数人が破産手続開始の決定を受けたときは,債権者は,その債権の全額について各破産財団の配当に加入することができる。
削除

 連帯債務者が破産手続開始の決定を受けた場合の債権者の配当加入については,破産§104で詳細に定められているため,旧法§441は削除されました。

連帯債務者の求償権に関する改正

要件

旧法 新法

【442条】(連帯債務者間の求償権)
1項:連帯債務者の一人が弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは,その連帯債務者は,他の連帯債務者に対し,各自の負担部分について求償権を有する。

2項:前項の規定による求償は,弁済その他免責があった日以後の法定利息及び避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含する。

【442条】(連帯債務者間の求償権)
1項:連帯債務者の一人が弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは,その連帯債務者は,の免責を得た額が自己の負担部分を超えるかどうかにかかわらず,他の連帯債務者に対し,その免責を得るために支出した財産の額(その財産の額が共同の免責を得た額を超える場合にあっては,その免責を得た額)のうち各自の負担部分に応じた額の求償権を有する。

2項:前項の規定による求償は,弁済その他免責があった日以後の法定利息及び避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含する。

 自己の財産をもって共同の免責を得た連帯債務者が他の連帯債務者に求償するための要件について,大判大正6年5月3日に従い,その共同の免責を得た額が求償を求める連帯債務者の負担部分を超えていることを要しない旨を明文化しています(新法§442Ⅰ)。

求償の額

 新法では,連帯債務者が他の連帯債務者に対して取得する求償権の額について,一般的な解釈に従い,原則としては連帯債務者が支出した財産の額ですが,連帯債務者の支出した財産の額が共同の免責を得た額を超える場合には,共同の免責を得た額にとどまる旨明記されました(新法§442Ⅰ)。

事前通知

旧法 新法

【443条】(通知を怠った連帯債務者の求償の制限)
1項:連帯債務者の一人が債権者から履行の請求を受けたことを他の連帯債務者に通知しないで弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得た場合において,他の連帯債務者は,債権者に対抗することができる事由を有していたときは,その負担部分について,その事由をもってその免責を得た連帯債務者に対抗することができる。この場合において,相殺をもってその免責を得た連帯債務者に対抗したときは,過失のある連帯債務者は,債権者に対し,相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。

2項:(後述)

【443条】(通知を怠った連帯債務者の求償の制限)
1項:他の連帯債務者があることを知りながら,連帯債務者の一人が共同の免責を得ることを他の連帯債務者に通知しないで弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得た場合において,他の連帯債務者は,債権者に対抗することができる事由を有していたときは,その負担部分について,その事由をもってその免責を得た連帯債務者に対抗することができる。この場合において,相殺をもってその免責を得た連帯債務者に対抗したときは,その連帯債務者は,債権者に対し,相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。

2項:(後述)

(1) 新法では,履行の請求を受けたかどうかにかかわらず,他の連帯債務者がいることを知りながら,連帯債務者があらかじめ通知しないで弁済等をした場合には,他の連帯債務者は,債権者に対抗することができた事由をもって,通知を怠った連帯債務者に対抗することができるものとされました(新法§443Ⅰ前段)。

 連帯債務者が他の連帯債務者の存在を知らない場合にまで,事前通知を求めることは妥当でないため,「他の連帯債務者があることを知りながら」との文言が加えられました。

 また,連帯債務者が履行の請求を受けて弁済をする場合に限らず,自発的に弁済をする場合でも,他の連帯債務者を保護する必要があることから,「債権者から履行の通知を受けたこと」との文言を,「共同の免責を得ること」との文言に変更されました。

(2) 更に,新法は,ある連帯債務者が,他の連帯債務者の存在を知りながら,連帯債務者が事前通知を怠って弁済等をした場合において,他の連帯債務者が相殺権を有していることを理由に求償を拒んだ場合には,事前通知を怠った連帯債務者は,その過失の有無にかかわらず,債権者に対し,その相殺権の行使によって消滅すべきであった債権者の他の連帯債務者に対する債務の履行を請求することができるとしています(新法§443Ⅰ後段)。

事後通知

旧法 新法

【443条】(通知を怠った連帯債務者の求償の制限)
1項:(前述)

2項:連帯債務者の一人が弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得たことを他の連帯債務者に通知することを怠ったため,他の連帯債務者が善意で弁済をし,その他有償の行為をもって免責を得たときは,その免責を得た連帯債務者は,自己の弁済その他免責のためにした行為を有効であったものとみなすことができる。

【443条】(通知を怠った連帯債務者の求償の制限)
1項:(前述)

2項:弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得た連帯債務者が,他の連帯債務者があることを知りながらその免責を得たことを他の連帯債務者に通知することを怠ったため,他の連帯債務者が善意で弁済その他自己の財産をもって免責を得るための行為をしたときは,当該他の連帯債務者は,その免責を得るための行為を有効であったものとみなすことができる。

 事後通知について定めた旧法§443Ⅱについても,新法§443Ⅱでは,同条Ⅰ前段の同様に,連帯債務者が他の連帯債務者の存在を知らない場合にまで,事後通知を求めることは妥当でないとの理由から,「他の連帯債務者があることを知りながら」との文言が加えられました。

無資力者の負担部分の分担

旧法 新法
【444条】(償還をする資力のない者の負担部分の分担)
連帯債務者の中に償還をする資力のない者があるときは,その償還をすることができない部分は,求償者及び他の資力のある者の間で,各自の負担部分に応じて分割して負担する。ただし,求償者に過失があるときは,他の連帯債務者に対して分担を請求することができない。

【444条】(償還をする資力のない者の負担部分の分担)
1項:連帯債務者の中に償還をする資力のない者があるときは,その償還をすることができない部分は,求償者及び他の資力のある者の間で,各自の負担部分に応じて分割して負担する。

2項:前項に規定する場合において,求償者及び他の資力のある者がいずれも負担部分を有しない者であるときは,その償還をすることができない部分は,求償者及び他の資力のある者の間で,等しい割合で分割して負担する。

3項:前二項の規定にかかわらず,償還を受けることができないことについて求償者に過失があるときは,他の連帯債務者に対して分担を請求することができない。

 新法では,新法§444Ⅱが新設されました。連帯債務者の中に償還をする資力のない者がある場合において,求償者及び他の資力のある者がいずれも負担部分を有しないときは,その償還をすることができない部分は,求償者及び他の資力のある者の間で,等しい割合で分割して負担するというものです。これは,大判大正3年10月13日を踏まえた改正です。

連帯の免除

旧法 新法
【445条】(連帯の免除と弁済をする資力のない者の負担部分の分担)
連帯債務者の一人が連帯の免除を得た場合において,他の連帯債務者の中に弁済をする資力のない者があるときは,債権者は,その資力のない者が弁済をすることができない部分のうち連帯の免除を得た者が負担すべき部分を負担する。
削除

 新法では,連帯の免除をした債権者が,免除を得た元連帯債務者が負うはずであった旧法§444に基づく求償の負担を引き受ける旨定めていた旧法§445は削除されました。

 債権者が連帯の免除をしたとしても,そのことが必ずしも免除を得た元連帯債務者が負うはずであった旧法§444に基づく求償の負担を引き受けることを意図するものであるとは限らないからです。

免除・時効完成

旧法 新法
規定なし 【445条】(連帯債務者の一人との間の免除等と求償権)
連帯債務者の一人に対して債務の免除がされ,又は連帯債務者の一人のために時効が完成した場合においても,他の連帯債務者は,その一人の連帯債務者に対し,第四百四十二条第一項の求償権を行使することができる。

 新法では,連帯債務者の一人に対して債務の免除がされ,又は連帯債務者の一人のために時効が完成した場合においても,他の連帯債務者は,その一人の負担部分を含めて履行する義務を負いますが,これを履行した場合には,その一人の連帯債務者に対し,新法§442Ⅰに基づく求償権を行使することができる旨の規定が新設されました(新法§445)。

 前述のとおり,新法では,債務免除や時効完成は相対的効力事由とされています(新法§441本文)。そうすると,債権者は,これらの事由が生じた連帯債務者以外の連帯債務者に対し,なおも連帯債務の全部の履行を求めることができるので,債務免除等の事由が生じていない連帯債務者は履行しなければなりません。もしここでこの連帯債務者が,履行したにもかかわらず,債務免除等の事由が生じた連帯債務者に対し,求償権を行使することができないとすると,履行した連帯債務者は,自己の負担部分を超えて負担を負うことになってしまいます。このような帰結は妥当でないとして,新法§445が設けられ,債務免除等の事由が生じた連帯債務者に対し,新法§442Ⅰに基づく求償権を行使することができるとしたのです。

 なお,明文の規定はありませんが,債務免除等の事由が生じた連帯債務者が,他の連帯債務者からの求償に応じたとしても,特約等がない限り,債権者に対し,求償相当額の支払を求めることはできないものと解されています。

不可分債権

旧法 新法
【428条】(不可分債権)
債権の目的がその性質上又は当事者の意思表示によって不可分である場合において,数人の債権者があるときは,各債権者はすべての債権者のために履行を請求し,債務者はすべての債権者のために各債権者に対して履行をすることができる。
【428条】(不可分債権)
次款(連帯債権)の規定(第四百三十三条及び第四百三十五条の規定を除く。)は,債権の目的がその性質上不可分である場合において,数人の債権者があるときについて準用する。

【429条】(不可分債権者の一人について生じた事由等の効力)
1項:不可分債権者の一人と債務者との間に更改又は免除があった場合においても,他の不可分債権者は,債務の全部の履行を請求することができる。この場合においては,その一人の不可分債権者がその権利を失わなければ分与される利益を債務者に償還しなければならない。

2項:前項に規定する場合のほか,不可分債権者の一人の行為又は一人について生じた事由は,他の不可分債権者に対してその効力を生じない。

【429条】(不可分債権者の一人との間の更新又は免除)
不可分債権者の一人と債務者との間に更改又は免除があった場合においても,他の不可分債権者は,債務の全部の履行を請求することができる。この場合においては,その一人の不可分債権者がその権利を失わなければ分与されるべき利益を債務者に償還しなければならない。

 不可分債権が,その目的が性質上不可分な債権のみを指す旨改正されたことは既に述べたとおりです。

 新法では,不可分債権については,その目的の不可分性に鑑み,更改・免除を絶対的効力事由とする新法§433と,ある連帯債権者と債務者との間で混同が生じたとき,債務者が弁済したものとみなす新法§435を除外した上で,その他の連帯債権に関する規定を準用する規定を設けています(新法§428)。

 新法§428によって準用される規定は以下に掲げる規定です。

 なお,相対的効力の原則に関する旧法§429Ⅱについては,新法§428が相対的効力の原則を定める新法§435を準用していることから,削除しています。

(連帯債権者による履行の請求等)
第四百三十二条
   債権の目的がその性質上可分である場合において,法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債権を有するときは,各債権者は,全ての債権者のために全部又は一部の履行を請求することができ,債務者は,全ての債権者のために各債権者に対して履行をすることができる。
(連帯債権者の一人との間の相殺)
第四百三十四条
   債務者が連帯債権者の一人に対して債権を有する場合において,その債務者が相殺を援用したときは,その相殺は,他の連帯債権者に対しても,その効力を生ずる。
(相対的効力の原則)
第四百三十五条の二
   第四百三十二条から前条までに規定する場合を除き,連帯債権者の一人の行為又は一人について生じた事由は,他の連帯債権者に対してその効力を生じない。ただし,他の連帯債権者の一人及び債務者が別段の意思を表示したときは,当該他の連帯債権者に対する効力は,その意思に従う。

不可分債務

旧法 新法
【430条】(不可分債務)
前条の規定及び次款(連帯債務)の規定(第四百三十四条から第四百四十条までの規定を除く。)は,数人が不可分債務を負担する場合について準用する。
【430条】(不可分債務)
第四款(連帯債務)の規定(第四百四十条の規定を除く。)は,債務の目的がその性質上不可分である場合において,数人の債務者があるときについて準用する。

 不可分債務が,その目的が性質上不可分な債務のみを指す旨改正されたことは既に述べたとおりです。

 新法では,不可分債務については,その目的の不可分性に鑑み,ある連帯債務者と債権者との間で混同が生じたとき,当該連帯債務者が弁済をしたものとみなす新法§440を除外した上で,連帯債務に関する規定を準用しています(新法§430)。

 新法§430が準用する規定は次の規定です。

(連帯債務者に対する履行の請求)
第四百三十六条
 債務の目的がその性質上可分である場合において,法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債務を負担するときは,債権者は,その連帯債務者の一人に対し,又は同時に若しくは順次に全ての連帯債務者に対し,全部又は一部の履行を請求することができる。
(連帯債務者の一人についての法律行為の無効等)
第四百三十七条
 連帯債務者の一人について法律行為の無効又は取消しの原因があっても,他の連帯債務者の債務は,その効力を妨げられない。
(連帯債務者の一人との間の更改)
第四百三十八条
 連帯債務者の一人と債権者との間に更改があったときは,債権は,全ての連帯債務者の利益のために消滅する。
(連帯債務者の一人による相殺等)
第四百三十九条
 連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有する場合において,その連帯債務者が相殺を援用したときは,債権は,全ての連帯債務者の利益のために消滅する。
 前項の債権を有する連帯債務者が相殺を援用しない間は,その連帯債務者の負担部分の限度において,他の連帯債務者は,債権者に対して債務の履行を拒むことができる。
(相対的効力の原則)
第四百四十一条
 第四百三十八条,第四百三十九条第一項及び前条に規定する場合を除き,連帯債務者の一人について生じた事由は,他の連帯債務者に対してその効力を生じない。 ただし,債権者及び他の連帯債務者の一人が別段の意思を表示したときは,当該他の連帯債務者に対する効力は,その意思に従う。
(連帯債務者間の求償権)
第四百四十二条
 連帯債務者の一人が弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは,その連帯債務者は,その免責を得た額が自己の負担部分を超えるかどうかにかかわらず,他の連帯債務者に対し,その免責を得るために支出した財産の額(その財産の額が共同の免責を得た額を超える場合にあっては,その免責を得た額)のうち各自の負担部分に応じた額の求償権を有する。
 前項の規定による求償は,弁済その他免責があった日以後の法定利息及び避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含する。
(通知を怠った連帯債務者の求償の制限)
第四百四十三条
 他の連帯債務者があることを知りながら,連帯債務者の一人が共同の免責を得ることを他の連帯債務者に通知しないで弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得た場合において,他の連帯債務者は,債権者に対抗することができる事由を有していたときは,その負担部分について,その事由をもってその免責を得た連帯債務者に対抗することができる。この場合において,相殺をもってその免責を得た連帯債務者に対抗したときは,その連帯債務者は,債権者に対し,相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。
 弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得た連帯債務者が,他の連帯債務者があることを知りながらその免責を得たことを他の連帯債務者に通知することを怠ったため,他の連帯債務者が善意で弁済その他自己の財産をもって免責を得るための行為をしたときは,当該他の連帯債務者は,その免責を得るための行為を有効であったものとみなすことができる。
(償還をする資力のない者の負担部分の分担)
第四百四十四条
 連帯債務者の中に償還をする資力のない者があるときは,その償還をすることができない部分は,求償者及び他の資力のある者の間で,各自の負担部分に応じて分割して負担する。
 前項に規定する場合において,求償者及び他の資力のある者がいずれも負担部分を有しない者であるときは,その償還をすることができない部分は,求償者及び他の資力のある者の間で,等しい割合で分割して負担する。
 前二項の規定にかかわらず,償還を受けることができないことについて求償者に過失があるときは,他の連帯債務者に対して分担を請求することができない。
(連帯債務者の一人との間の免除等と求償権)
第四百四十五条
  連帯債務者の一人に対して債務の免除がされ,又は連帯債務者の一人のために時効が完成した場合においても,他の連帯債務者は,その一人の連帯債務者に対し,第四百四十二条第一項の求償権を行使することができる。

 

 以上,長文を読んでくださり,ありがとうございました!

 不可分債権・債務,連帯債権・債務等の絶対的効力事由について一覧表にしてまとめましたので,是非ご活用ください!

確認問題〔多数当事者の債権及び債務(保証債務を除く。)〕

新法に基づいて回答してください!(全5問)

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