【2020年民法改正】詐害行為取消権【勉強ノート】

改正のポイント

 新法では,破産法の否認権の制度を参考に,詐害行為が,相当対価処分担保供与行為対価的均衡のとれた債務消滅行為対価的均衡を欠く債務消滅行為である場合について,個別の類型化が図られました。

 また,旧法下での運用を踏まえ,詐害行為取消権の行使方法等が具体的に明文化されています。

 一方,新法では,受益者が善意で,当該受益者に対する詐害行為取消請求が認められない場合には,転得者に対し,詐害行為取消請求をすることができない旨の改正が行われたり,詐害行為取消請求に係る訴えの認容判決の判決効が債務者に対しても及ぼされることとなり,それに合わせ,必要な改正が加えられています。これらの点は,旧法下での運用が大きく変わるポイントなので,注意が必要です。

 また,詐害行為取消権の行使可能期間についても,これを限定する方向での改正が加えられています。

詐害行為取消権の要件

詐害行為取消権一般類型

変更点

旧法 新法

【424条】(詐害行為取消権)
1項:債権者は,債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし,その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは,この限りでない。

2項:前項の規定は,財産権を目的としない法律行為については,適用しない。

【424条】(詐害行為取消請求)
1項:債権者は,債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし,その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは,この限りでない。

2項:前項の規定は,財産権を目的としない行為については,適用しない。

3項:債権者は,その債権が第一項に規定する行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り,同項の規定による請求(以下「詐害行為取消請求」という。)をすることができる。

4項:債権者は,その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは,詐害行為取消請求をすることができない。

説明

1 1項について

 まず,旧法§424Ⅰの「法律行為」との文言が,新法では,単に「行為」に改められています(新法§424Ⅰ)。これは,弁済等の厳密な意味では法律行為に当たらない行為も,責任財産を毀損し得るため,最判昭和33年9月26日が,こうした行為も詐害行為取消権の対象としていたことを踏まえた改正です。

 また,転得者が新法§424Ⅰに基づく詐害行為取消請求の対象から除外されています。転得者に対する詐害行為取消請求については,別途,新法§424の5が設けられ,そこで規定されています(後述)。

2 3項について

 新法では,債権者が債務者のある行為について詐害行為取消請求をする場合,被保全債権は当該行為の前の原因に基づいて生じたものであることを要する旨,条文上明確にされました(新法§424Ⅱ)。

3 4項について

 新法では,被保全債権が強制執行により実現することのできない債権である場合には,債権者は詐害行為取消請求をすることができない旨,条文上明確にされました(新法§424Ⅳ)。

相当対価処分の特則(新法§424の2)

変更点

旧法 新法
規定なし 【424条の2】(相当の対価を得てした財産の処分行為の特則)
債務者が,その有する財産を処分する行為をした場合において,受益者から相当の対価を取得しているときは,債権者は,次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り,その行為について,詐害行為取消請求をすることができる。
一 その行為が,不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により,債務者において隠匿,無償の供与その他の債権者を害することとなる処分(以下この条において「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。
二 債務者が,その行為の当時,対価として取得した金銭その他の財産について,隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
③ 受益者が,その行為の当時,債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。

説明

 破産法の否認権の制度と平仄を合わせ,新法では,相当の対価を得てした財産の処分行為を対象とする詐害行為取消請求に関する規定が個別に設けられ(新法§424の2),固有の要件が設定されました。その要件事実については後述します。

担保供与行為等の特則(新法§424の3)

変更点

旧法 新法
規定なし

【424条の3】(特定の債権者に対する担保の供与等の特則)
1項:債務者がした既存の債務についての担保の供与又は債務の消滅に関する行為について,債権者は,次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り,詐害行為取消請求をすることができる。
一 その行為が,債務者が支払不能(債務者が,支払能力を欠くために,その債務のうち弁済期にあるものにつき,一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう。次項第一号において同じ。)の時に行われたものであること。
二 その行為が,債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。

2項:前項に規定する行為が,債務者の義務に属せず,又はその時期が債務者の義務に属しないものである場合において,次に掲げる要件のいずれにも該当するときは,債権者は,同項の規定にかかわらず,その行為について,詐害行為取消請求をすることができる。
一 その行為が,債務者が支払不能になる前三十日以内に行われたものであること。
二 その行為が,債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。

説明

 破産法の否認権の制度と平仄を合わせ,新法では,特定の債権者に対する担保供与行為又は対価的均衡のとれた債務消滅行為を対象とする詐害行為取消請求に関する規定が個別に設けられ(新法§424の3),固有の要件が設定されました。その要件事実については後述します。

対価的均衡を欠く債務消滅行為の特則(新法§424の4)

変更点

旧法 新法
規定なし 【424条の4】(過大な代物弁済等の特則)
債務者がした債務の消滅に関する行為であって,受益者の受けた給付の価額がその行為によって消滅した債務の額より過大であるものについて,第四百二十四条に規定する要件に該当するときは,債権者は,前条第一項の規定にかかわらず,その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分については,詐害行為取消請求をすることができる。

説明

 破産法の否認権の制度と平仄を合わせ,新法では,対価的な均衡を欠く債務消滅行為を対象とする詐害行為取消請求に関する規定が個別に設けられました(新法§424の4)。

 新法§424の4・§424に基づく詐害行為取消しの対象となるのは,債務消滅行為によって消滅した債務の額に相当する部分を超える部分です。消滅した債務の額に相当する部分については,新法§424の3に基づいて取り消されることになります。

転得者に対する詐害行為取消請求(新法§424の5)

変更点

旧法 新法
規定なし 【424条の5】(転得者に対する詐害行為取消請求)
債権者は,受益者に対して詐害行為取消請求をすることができる場合において,受益者に移転した財産を転得した者があるときは,次の各号に掲げる区分に応じ,それぞれ当該各号に定める場合に限り,その転得者に対しても,詐害行為取消請求をすることができる。
一 その転得者が受益者から転得した者である場合その転得者が,転得の当時,債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき。
二 その転得者が他の転得者から転得した者である場合その転得者及びその前に転得した全ての転得者が,それぞれの転得の当時,債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき。

説明

 旧法下の判例(最判昭和49年12月12日)は,受益者が善意であるため,当該受益者に詐害行為取消請求をすることができない場合であっても,転得者が悪意であれば,当該転得者に対し,詐害行為取消請求をすることができる旨判示していました。

 しかし,新法では,転得者に対して詐害行為取消請求をするためには,受益者が善意ではなく,当該受益者に対しても詐害行為取消請求をすることができる場合でなければならないものとされました(新法§424の5)。

 前述の旧法下の判例のような考え方を採ると,受益者から譲り受けた財産を失った転得者から,当該受益者に対し,担保責任を追及されるなど,善意の受益者の取引の安全が害されかねません。このような善意の受益者の取引の安全を保護するため,前述のような改正が行われたのです。

要件事実

詐害行為取消権の行使方法

逸出した財産の債務者への返還請求等(新法§424の6)

変更点

旧法 新法
規定なし

【424条の6】(財産の返還又は価額の償還の請求)
1項:債権者は,受益者に対する詐害行為取消請求において,債務者がした行為の取消しとともに,その行為によって受益者に移転した財産の返還を請求することができる。受益者がその財産の返還をすることが困難であるときは,債権者は,その価額の償還を請求することができる。

2項:債権者は,転得者に対する詐害行為取消請求において,債務者がした行為の取消しとともに,転得者が転得した財産の返還を請求することができる。転得者がその財産の返還をすることが困難であるときは,債権者は,その価額の償還を請求することができる。

説明

 新法§424の6は,債権者は,受益者又は転得者に対する詐害行為取消請求において,対象となる行為の取消しだけではなく,その行為によって移転した財産を債務者に返還するように請求することができ,加えて,その財産の返還が困難な場合には,債務者に価額償還を求めることができるとの判例(大判明治44年3月24日)を踏まえ,新設されたものです。

取消しの範囲(新法§424の8)

変更点

旧法 新法
規定なし

【424条の8】(詐害行為の取消しの範囲)
1項:債権者は,詐害行為取消請求をする場合において,債務者がした行為の目的が可分であるときは,自己の債権の額の限度においてのみ,その行為の取消しを請求することができる。

2項:債権者が第四百二十四条の六第一項後段又は第二項後段の規定により価額の償還を請求する場合についても,前項と同様とする。

説明

 新法§424の8Ⅰは,債権者は,詐害行為取消権の対象となる行為の目的が可分であるときは,自己の債権の額の限度においてのみ,その行為の取消しを請求することができるとの判例(大判明治36年12月7日)を踏まえ,新設されたものです。

 また,新法§424の6Ⅰ後段又は同条Ⅱ後段に基づいて価額償還請求する場合についても,同様の規律を及ぼす旨の規定も新設されています(新法§424の8Ⅱ)。

債権者から相手方への直接の支払請求等(新法§424の9)

変更点

旧法 新法
規定なし

【424条の9】(債権者への支払又は引渡し)
1項:債権者は,第四百二十四条の六第一項前段又は第二項前段の規定により受益者又は転得者に対して財産の返還を請求する場合において,その返還の請求が金銭の支払又は動産の引渡しを求めるものであるときは,受益者に対してその支払又は引渡しを,転得者に対してその引渡しを,自己に対してすることを求めることができる。この場合において,受益者又は転得者は,債権者に対してその支払又は引渡しをしたときは,債務者に対してその支払又は引渡しをすることを要しない。

2項:債権者が第四百二十四条の六第一項後段又は第二項後段の規定により受益者又は転得者に対して価額の償還を請求する場合についても,前項と同様とする。

説明

 新法§424の9は,受益者又は転得者に対する債権者自身への直接の支払等請求を認めた判例(大判大正10年6月18日等)を踏まえ,新設されたものです。受益者等が,債権者に対して支払等を行った場合には,債務者に対し,重ねて支払等をすることを要しないことも明記されました。

 なお,新法下でも,債権者が詐害行為取消権を行使して自ら金銭の支払を受けた場合に,その金銭の債務者に対する返還債務と債務者に対する自己の債権とを相殺することは禁止されていません

被告適格と債務者に対する訴訟告知(新法§424の7)

変更点

旧法 新法
規定なし

【424条の7】(被告及び訴訟告知)
1項:詐害行為取消請求に係る訴えについては、次の各号に掲げる区分に応じ,それぞれ当該各号に定める者を被告とする。
一 受益者に対する詐害行為取消請求に係る訴え受益者
二 転得者に対する詐害行為取消請求に係る訴えその詐害行為取消請求の相手方である転得者

2項:債権者は,詐害行為取消請求に係る訴えを提起したときは,遅滞なく,債務者に対し,訴訟告知をしなければならない。

説明

 新法では,旧法下での運用(大判明治44年3月24日)とは異なり,後述のように,債務者に対し,詐害行為取消請求に係る訴えの認容判決の判決効が債務者に対しても及ぶ(新法§425)ことを前提に,受益者又は転得者が当該訴えの被告適格を有する旨の規定が新設されました(新法§424の7Ⅰ)。そして,このように債務者に対しても認容判決の判決効が及ぶ以上,債務者の手続保障を図る必要があるため,債務者に対する訴訟告知の制度も創設されました(新法§424の7Ⅱ)。

認容判決の判決効(新法§425)

変更点

旧法 新法
【425条】(詐害行為の取消しの効果)
前条の規定による取消しは,すべての債権者の利益のためにその効力を生ずる。
【425条】(認容判決の効力が及ぶ者の範囲)
詐害行為取消請求を認容する確定判決は,債務者及びその全ての債権者に対してもその効力を有する。

説明

 旧法下では,詐害行為取消請求に係る訴えの判決効は,請求の相手方である受益者又は転得者に対してのみ及ぶ相対的効力であるとされていました(大判明治44年3月24日)。

 しかし,それでは,受益者等は,自身は財産を債務者の責任財産へと戻したにもかかわらず,債務者から支払済みの金銭等の返還を受けることができないなどというように関係者間で不公平な結果をもたらしかねません。

 そこで,新法では,債務者に対しても,詐害行為取消請求に係る訴えの認容判決の判決効を及ぼすこととしました(新法§425)。これにより,債権者・債務者・受益者等の関係者間で統一的な解決を図ることができるようになりました(新法§425の2以下参照)。

詐害行為取消権が行使された場合における受益者等の権利

変更点

旧法 新法
規定なし 【425条の2】(債務者の受けた反対給付に関する受益者の権利)
債務者がした財産の処分に関する行為(債務の消滅に関する行為を除く。)が取り消されたときは,受益者は,債務者に対し,その財産を取得するためにした反対給付の返還を請求することができる。債務者がその反対給付の返還をすることが困難であるときは,受益者は,その価額の償還を請求することができる。
規定なし 【425条の3】(受益者の債権の回復)
債務者がした債務の消滅に関する行為が取り消された場合(第四百二十四条の四の規定により取り消された場合を除く。)において,受益者が債務者から受けた給付を返還し,又はその価額を償還したときは,受益者の債務者に対する債権は,これによって原状に復する。
規定なし 【425条の4】(詐害行為取消請求を受けた転得者の権利)
債務者がした行為が転得者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたときは,その転得者は,次の各号に掲げる区分に応じ,それぞれ当該各号に定める権利を行使することができる。ただし,その転得者がその前者から財産を取得するためにした反対給付又はその前者から財産を取得することによって消滅した債権の価額を限度とする。
一 第四百二十五条の二に規定する行為が取り消された場合その行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば同条の規定により生ずべき受益者の債務者に対する反対給付の返還請求権又はその価額の償還請求権
二 前条に規定する行為が取り消された場合(第四百二十四条の四の規定により取り消された場合を除く。) その行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば前条の規定により回復すべき受益者の債務者に対する債権

説明

 詐害行為取消請求に係る訴えの認容判決の判決効が債務者に対しても及ぼされたこと(新法§425)に合わせ,財産処分行為が取り消された場合には,受益者は,債務者に対し,その反対給付の返還を請求することができ,また,反対給付が第三者に処分された場合等,その反対給付の返還が困難になっている場合には,価額償還を求めることができる旨の規定が新設されました(新法§425の2)。

 転得者についても,転得者が目的財産を取得するためにした反対給付(代物弁済の場合には消滅した債権)の価額を限度として,同様の請求をすることができる旨の規定が新設されています(新法§425の4①)。

 さらに,新法では,判例(大判昭和16年2月10日)を踏まえ,債務消滅行為が取り消された場合(新法§424の4の規定により詐害的な財産処分行為として取り消された場合を除きます。)において,受益者が債務者から受けた給付を返還し,又はその価額を償還したときは,受益者の債務者に対する債権が原状に復する旨の規定も新設されました(新法§425の3)。

 転得者についても,転得者に対する詐害行為取消請求によって債務消滅行為が取り消された場合には,転得者がその前者から財産を取得するためにした反対給付の価額を限度として,当該債務消滅行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば回復すべき受益者の債務者に対する債権を転得者が行使することができる旨の規定が新設されています(新法§425の4②)。

詐害行為取消権の出訴期間

変更点

旧法 新法
【426条】(詐害行為取消権の期間の制限)
第四百二十四条の規定による取消権は,債権者が取消しの原因を知った時から二年間行使しないときは,時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも,同様とする。
【426条】
詐害行為取消請求に係る訴えは,債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から二年を経過したときは,提起することができない。行為の時から十年を経過したときも、同様とする。

説明

 詐害行為取消権が他者の財産管理に介入するものであるとの性質上,なるべくかかる介入は謙抑的であるべきであり,その行使によって既成の法律関係を覆滅させることを許す期間もなるべく制限すべきとの観点から,改正が行われています。

(1) まず,旧法の「時効によって消滅する」との文言が,新法では,「提起することができない」との文言に変更されています。これは,民§426が,詐害行為取消権の消滅時効期間について定めたものではなく,詐害行為取消請求に係る訴えの出訴期間を定めたものであることを明らかにするものです。

 これにより,時効の完成猶予や更新によって,詐害行為取消権の行使期間が長期にわたり引き延ばされることはなくなりました。

(2) 次に,旧法の「債権者が取消しの原因を知った時」との文言が,新法では,「債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時」との文言に変更されています。これは,出訴期間を起算するにあたり,債権者が受益者等の悪意を認識している必要はないことを明らかにしています。

(3) 最後に,長期の制限期間が20年から10年へと短縮されています。

確認問題〔詐害行為取消権〕

新法に基づいて回答してください!(全5問)

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