【2020年民法改正】弁済①―弁済の効力等【勉強ノート】

弁済の基本的効果の明文化

旧法 新法
規定なし 【473条】(弁済)
債務者が債権者に対して債務の弁済をしたときは,その債権は,消滅する。

 旧法には,弁済の基本的効果について定める規定がなかったため,新法では,一般的な解釈に従い,弁済の基本的効果が債務の消滅であることを明らかにする規定が新設されました(新法§473)。

第三者の弁済

旧法 新法

【474条】(第三者の弁済)
1項:債務の弁済は,第三者もすることができる。ただし,その債務の性質がこれを許さないとき,又は当事者が反対の意思を表示したときは,この限りでない。

2項:利害関係を有しない第三者は,債務者の意思に反して弁済をすることができない。

【474条】(第三者の弁済)
1項:債務の弁済は,第三者もすることができる。

2項:弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は,債務者の意思に反して弁済をすることができない。ただし,債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは,この限りでない。

3項:前項に規定する第三者は,債権者の意思に反して弁済をすることができない。ただし,その第三者が債務者の委託を受けて弁済をする場合において,そのことを債権者が知っていたときは,この限りでない。

4項:前三項の規定は,その債務の性質が第三者の弁済を許さないとき,又は当事者が第三者の弁済を禁止し,若しくは制限する旨の意思表示をしたときは,適用しない。

変更点

 第三者による弁済に関する旧法§474には様々な改正が加えられていますが,旧法§474の変更点は次の4点です。

  • 旧法§474Ⅱの「利害関係を有しない」との文言が,「弁済をするについて正当な利益を有する者でない」(新法§474Ⅱ本文)との文言に変更されました。
  • 利害関係を有しない(弁済をするについて正当な利益を有する者でない)第三者による債務者の意思に反する弁済であっても,それが債務者の意思に反することを債権者が知らない場合には有効となる旨の例外規定が新設されました(新法§474Ⅱ但書)。
  • 「弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は,債権者の意思に反して弁済をすることができない。ただし,その第三者が債務者の委託を受けて弁済をする場合において,そのことを債権者が知っていたときは,この限りでない。」と規定が新設されました(新法§474Ⅲ)。
  • 旧法§474Ⅰ但書の「当事者が反対の意思を表示したとき」との文言が「当事者が第三者の弁済を禁止し,若しくは制限する旨の意思表示をしたとき」(新法§474Ⅳ)との文言に変更されました。

 以下,それぞれについて説明を加えます。

「弁済をするについて正当な利益を有する者でない」との文言への変更

 第三者による弁済の場合と代位による弁済(民§500)の場合とで,弁済することができる第三者の範囲を区別する理由が特にないとして,その旨を明らかにするために,第三者による弁済において弁済が認められる第三者の要件を,代位による弁済において弁済が認められる第三者の要件に揃えることにしました。

弁済に正当な利益を有しない第三者による債務者の意思に反する弁済が有効となる例外

 新法では,弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者の弁済が債務者の意思に反する場合であっても,債務者の意思に反することを債権者が知らなかった場合には,その弁済は有効となる旨の規定が新設されました(新法§474Ⅱ但書)。

 債権者が,受領拒絶が違法になることをおそれ,債務者の意思に反するかどうかの確認を待たずに第三者からの弁済を受領してしまう場合があり得ますが,この場合に,債務者の意思に反することが事後的に判明したようなときに,債権者に給付物の返還という不利益を甘受させてまで,債務者を保護する必要はないとの考慮による改正です。

弁済に正当な利益を有しない第三者による債権者の意思に反する弁済

 弁済をするにつき正当な利益を有しない第三者による弁済が債権者の意思に反する場合には当該弁済は原則として無効ですが,第三者が弁済をすることにつき債務者の委託を受けていることを債権者が知っていた場合には例外的に有効となる旨の規定が新設されました(新法§474Ⅲ)。

 このような弁済が原則無効とされたのは,弁済をするにつき正当な利益を有しない第三者から弁済を受けることを望まない債権者の意思を尊重する趣旨です。

 一方,履行引受契約(債務は負わずに履行のみを引き受ける契約)を締結して第三者が弁済しようとする場合において,かかる第三者は弁済をするについて正当な利益を有するとは言い難いですが,債権者の意思に反しても有効に弁済することができるようにする必要性が認められます。

 そこで,返済時,債務者による第三者への弁済委託を債権者が知っていた場合に限り,例外的にかかる弁済を有効とすることにしました。

「当事者が第三者の弁済を禁止し,若しくは制限する旨の意思表示をしたとき」との文言への変更

 「当事者が反対の意思を表示したとき」(旧法§474Ⅰ但書)との文言から,「当事者が第三者の弁済を禁止し,若しくは制限する旨の意思表示をしたとき」(新法§474Ⅳ)との文言へと変更されましたが,これは文言を分かりやすくするための変更であり,意味内容に実質的な変更はありません。

要件事実

 弁済についての正当な利益の有無が再々抗弁になっているのは,正当な利益の有無は第三者自身が最もよく知るのが通常との立証負担上の公平性や,新法§474Ⅲの第三者による弁済については,同項本文で債権者に受領拒絶権を認めた条文の建付け(第三者による弁済が債権者の意思に反する場合,かかる弁済が認められるのは例外である以上,弁済に利益を有する第三者が自ら弁済に正当な利益を有することを主張立証すべき)が考慮されていると思われます。

制限行為能力者による取戻し

旧法 新法
【476条】
譲渡につき行為能力の制限を受けた所有者が弁済として物の引渡しをした場合において,その弁済を取り消したときは,その所有者は,更に有効な弁済をしなければ,その物を取り戻すことができない。
削除

 制限行為能力者が弁済として引き渡した所有物について,さらに有効な弁済をしなければこれを取り戻すことができないとする旧法§476は削除されました。

 制限行為能力者の保護に欠けるからです。

預貯金口座に対する払込みによる弁済

旧法 新法
規定なし 【477条】(預金又は貯金の口座に対する払込みによる弁済)
債権者の預金又は貯金の口座に対する払込みによってする弁済は,債権者がその預金又は貯金に係る債権の債務者に対してその払込みに係る金額の払戻しを請求する権利を取得した時に,その効力を生ずる。

 旧法には,預貯金口座を通じた振込みによる弁済に関する規定がありませんでした。

 そこで,新法§477では,金銭の給付を目的とする債務について債権者の預貯金口座に振り込んで弁済する場合,債権者がその預貯金の払戻しを請求する権利を取得した時に,弁済の効力が生じるとの預貯金口座を通じた振込みによる弁済の効力発生時期に関する規定が新設されました。

 もっとも,払戻請求権の取得時期をいつとするかについては解釈に委ねられています。

確認問題〔弁済①―弁済の効力等〕

新法に基づいて回答してください!(全4問)

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