インターネット上の電子掲示板に投稿された記事がバーチャルYouTuberとして活動する者の人格的利益を侵害するものであるとして、当該投稿に係る発信者情報の開示を命じた裁判例(大阪地判令和4年8月31日)

事案の概要

 大阪地判令和4年8月31日の事案は次のとおりです。

  • 原告は、「宝鐘マリン」という名称を用い、アバターを使用して、YouTubeに動画を投稿するなどして、バーチャルYouTuber(VTuber)として活動している。
  • 「5ちゃんねる」に立てられた「【バーチャルYouTuber】宝鐘マリン#95【A】」と題するスレッドに「仕方ねぇよバカ女なんだから 母親がいないせいで精神が未熟なんだろ」と投稿された(「本件投稿」)。
  • 原告は、本件投稿により名誉感情が侵害されたなどと主張して、改正前プロバイダ責任制限法2条3号所定の特定電気通信役務提供者である被告会社に対し、改正前プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、本件投稿に用いられたIPアドレスの開示を求めた。

判旨

 裁判所は、次のように述べて、権利侵害の明白性の存在を認め、原告の請求を認容しました。

(1)原告は,Aに所属し,動画配信サイトにおける配信活動等を行っている者である。原告は,配信活動等を行うに当たっては,原告の氏名(本名)を明らかにせず,「宝鐘マリン」の名称を用い,かつ,原告自身の容姿を明らかにせずに架空のキャラクターのアバターを使用して,YouTubeに動画を投稿したり,ツイッターにツイートしたりしている。そして,「宝鐘マリン」であるとする架空のキャラクターを使用し,宝鐘マリンにつき,宝鐘海賊団の船長であるなどのキャラクターを設定しているものの,「宝鐘マリン」の言動は,原告自身の個性を活かし,原告の体験や経験をも反映したものになっており,原告が「宝鐘マリン」という名称で表現行為を行っているといえる実態にある……。

(2)本件投稿がされたスレッドのタイトルは,「【バーチャルYouTuber】宝鐘マリン#95【A】」であり……,同スレッドは,宝鐘マリンについての話題を投稿するために設けられたものである。そして,宝鐘マリンは,令和3年5月17日,体調不良で休養する旨のツイートをした後,ツイッターへの投稿を一時的に中止したところ……,同月19日,上記スレッドに「もうとっくに体調は戻ってるんじゃない? 一度配信から離れたくなったんだろう リツイートしてるのは俺らへの義理だと思うぜ」との投稿がされ(レス番号111),これを受け,「いやマジでリツイート出来る余裕あるなら近況報告くらいツイートしろや,なに捻くれてんねん。一連の行動が避難(注:非難の誤記と思われる。)を受けたのは身錆だろ 課金してる連中に申し訳無い気持ちねーの?」との投稿がされ(レス番号112),この投稿に対し,本件投稿,すなわち,「仕方ねぇよバカ女なんだから 母親がいないせいで精神が未熟なんだろ」との投稿(レス番号113)がされたという経緯……をも踏まえれば,本件投稿は,「宝鐘マリン」の名称で活動する者に向けられたものであると認められる。

(3)本件投稿の内容は,「仕方ねぇよバカ女なんだから 母親がいないせいで精神が未熟なんだろ」というものであるところ……,「仕方ねぇよ」という表現にとどまれば,被告が主張するように不満・愚痴という程度のものにすぎないといえるとしても,本件投稿の内容は,およそ不満・愚痴にとどまるものではなく,「宝鐘マリン」の名称で活動する者を一方的に侮辱する内容にほかならない。そして,「バカ女」「精神が未熟」というように分断して捉えるのではなく,本件投稿の内容を一体として捉えつつ,その表現が見下すようなものになっていることや,成育環境に問題があるかのような指摘までしていることをも踏まえれば,特段の事情のない限り,本件投稿による侮辱は,社会通念上許される限度を超えるものであると認められる。そして,上記の者が挑発的な言動に及んだことが原因となって本件投稿がされたなどの特段の事情があると認めるに足りる証拠はない。

(4)上記(1)及び(2)によれば,「宝鐘マリン」としての言動に対する侮辱の矛先が,表面的には「宝鐘マリン」に向けられたものであったとしても,原告は,「宝鐘マリン」の名称を用いて,アバターの表象をいわば衣装のようにまとって,動画配信などの活動を行っているといえること,本件投稿は「宝鐘マリン」の名称で活動する者に向けられたものであると認められることからすれば,本件投稿による侮辱により名誉感情を侵害されたのは原告であり……,上記(3)のとおり,当該侮辱は社会通念上許される限度を超えるものであると認められるから,これにより,原告の人格的利益が侵害されたというべきである。そして,法4条1項1号の「権利」には,民法709条所定の法律上保護される利益も含まれるから,特定電気通信を用いて本件投稿が流通したことにより,原告の権利が侵害されたことは明らかである。

※ 傍線は筆者による。

コメント

 本判決を参照する限り、Ⅴtuverに向けられた誹謗中傷や侮辱が直ちに中身の人に対する名誉毀損や侮辱等となるわけではないと考えられる。

 誹謗中傷や侮辱の内容や経緯等を検討し、それが表面上のキャラクターに関するものではなく、中身の人に関する者であれば、中身の人に対する名誉毀損や侮辱等になるものと考えられる。

 したがって、単に「そのキャラクターかわいくない。」などのような表面上のキャラクターに関するものであれば、中身の人に対する名誉毀損や侮辱等は成立しないと考えられる。

Please follow and like us:

コメント

タイトルとURLをコピーしました