返送委任状に反対意思が表明されている場合にはこれを会社法785条2項1号イの反対通知として扱うべきと判示した裁判例(最一決令和5年10月26日)

事案の概要

 最一決令和5年10月26日の事案の概要は次のとおりです。

  • スジャータ社が、スジャータ社の株主である抗告人に対し、宛先を自社とする委任状用紙を送付して議決権の代理行使を勧誘した。
  • 抗告人は、賛否欄の「否」に〇印を付け、また、当該賛否欄の欄外に「合併契約の内容や主旨が不明の上、数日前の通知であり賛否表明ができません(合併契約書を表示して下さい)」との付記する(「本件付記」)などして、当該委任状用紙を記入・作成し、スジャータ社に対して当該委任状用紙を返送した。
  • 抗告人が、利害関係参加人を吸収合併存続株式会社、スジャータ社を吸収合併消滅株式会社とする吸収合併についての反対株主として、スジャータ社に対し、会社法785条1項に基づき、抗告人の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求した。
  • しかし、その価格の決定につき協議が調わなかった。
  • そこで、抗告人が、会社法786条2項に基づき、価格決定の申立てをした。
  • 原審は、抗告人は反対株主ではないから、本件申立ては不適法であるとして却下した。
  • これに対し、抗告人が許可抗告をした

判旨

 上記事案に対し、最高裁は次のとおり判示し、原決定を破棄し、原々決定を取り消し、更に審理を尽くさせるため、本件を原々審に差し戻ました。

 会社法785条1項、2項1号イは、吸収合併等をするための株主総会において議決権を行使することができる株主が反対株主として株式買取請求をするためには、上記株主総会に先立って当該株主が反対通知をすることを要する旨規定している。その趣旨は、消滅株式会社等に対し、吸収合併契約等の承認に係る議案に反対する株主の議決権の個数や株式買取請求がされる株式数の見込みを認識させ、当該議案を可決させるための対策を講じたり、当該議案の撤回を検討したりする機会を与えるところにあると解される。そして、本件のように、株主が上記株主総会に先立って吸収合併等に反対する旨の議決権の代理行使を第三者に委任することを内容とする委任状を消滅株式会社等に送付した場合であっても、当該委任状が作成・送付された経緯やその記載内容等の事情を勘案して、吸収合併等に反対する旨の当該株主の意思が消滅株式会社等に対して表明されているということができるときには、消滅株式会社等において、上記見込みを認識するとともに、上記機会が与えられているといってよいから、上記委任状を消滅株式会社等に送付したことは、反対通知に当たると解するのが相当である。

 これを本件についてみると、本件委任状は、スジャータ社が、抗告人に対し、宛先を自社とする本件委任状用紙を送付して議決権の代理行使を勧誘し、抗告人が、これに応じて、本件委任状用紙の各欄に記載をするなどして作成し、スジャータ社に対して返送したものである。そうすると、抗告人が本件賛否欄に記載したところは、代理人となるべき者に対して議決権の代理行使の内容を指示するだけのものではなく、上記勧誘をしてきたスジャータ社に対する応答でもあったということができ、本件委任状の送付は、スジャータ社に向けて本件吸収合併についての抗告人の意思を通知するものでもあったというべきである。そして、本件賛否欄には「否」に〇印が付けられていたのであるから、本件吸収合併に反対する旨の抗告人の意思が本件委任状に表明されていたことは明らかである。なお、本件付記は、その記載内容等からすると、本件議案に反対する理由を記載したものとみるべきであって、本件付記があることは、本件吸収合併に反対する旨の抗告人の意思が本件委任状に表明されていたとの上記判断を左右するものではない。

 以上からすると、本件委任状の送付は、本件吸収合併に反対する旨の抗告人の意思をスジャータ社に対して表明するものということができる。 したがって、抗告人がスジャータ社に対して本件委任状を送付したことは、反対通知に当たると解するのが相当である。

※ 傍線は筆者による。

関連法令

会社法

(反対株主の株式買取請求)
第七百八十五条 吸収合併等をする場合(次に掲げる場合を除く。)には、反対株主は、消滅株式会社等に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。
 第七百八十三条第二項に規定する場合
 第七百八十四条第二項に規定する場合
 前項に規定する「反対株主」とは、次の各号に掲げる場合における当該各号に定める株主(第七百八十三条第四項に規定する場合における同項に規定する持分等の割当てを受ける株主を除く。)をいう。
 吸収合併等をするために株主総会(種類株主総会を含む。)の決議を要する場合 次に掲げる株主
 当該株主総会に先立って当該吸収合併等に反対する旨を当該消滅株式会社等に対し通知し、かつ、当該株主総会において当該吸収合併等に反対した株主(当該株主総会において議決権を行使することができるものに限る。)
 当該株主総会において議決権を行使することができない株主 前号に規定する場合以外の場合 全ての株主(第七百八十四条第一項本文に規定する場合における当該特別支配会社を除く。)
 消滅株式会社等は、効力発生日の二十日前までに、その株主(第七百八十三条第四項に規定する場合における同項に規定する持分等の割当てを受ける株主及び第七百八十四条第一項本文に規定する場合における当該特別支配会社を除く。)に対し、吸収合併等をする旨並びに存続会社等の商号及び住所を通知しなければならない。ただし、第一項各号に掲げる場合は、この限りでない。
 次に掲げる場合には、前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。 消滅株式会社等が公開会社である場合 消滅株式会社等が第七百八十三条第一項の株主総会の決議によって吸収合併契約等の承認を受けた場合
 第一項の規定による請求(以下この目において「株式買取請求」という。)は、効力発生日の二十日前の日から効力発生日の前日までの間に、その株式買取請求に係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)を明らかにしてしなければならない。
 株券が発行されている株式について株式買取請求をしようとするときは、当該株式の株主は、消滅株式会社等に対し、当該株式に係る株券を提出しなければならない。ただし、当該株券について第二百二十三条の規定による請求をした者については、この限りでない。
 株式買取請求をした株主は、消滅株式会社等の承諾を得た場合に限り、その株式買取請求を撤回することができる。
 吸収合併等を中止したときは、株式買取請求は、その効力を失う。
 第百三十三条の規定は、株式買取請求に係る株式については、適用しない。

(株式の価格の決定等)
第七百八十六条 株式買取請求があった場合において、株式の価格の決定について、株主と消滅株式会社等(吸収合併をする場合における効力発生日後にあっては、吸収合併存続会社。以下この条において同じ。)との間に協議が調ったときは、消滅株式会社等は、効力発生日から六十日以内にその支払をしなければならない。
 株式の価格の決定について、効力発生日から三十日以内に協議が調わないときは、株主又は消滅株式会社等は、その期間の満了の日後三十日以内に、裁判所に対し、価格の決定の申立てをすることができる。
 前条第七項の規定にかかわらず、前項に規定する場合において、効力発生日から六十日以内に同項の申立てがないときは、その期間の満了後は、株主は、いつでも、株式買取請求を撤回することができる。
 消滅株式会社等は、裁判所の決定した価格に対する第一項の期間の満了の日後の法定利率による利息をも支払わなければならない。
 消滅株式会社等は、株式の価格の決定があるまでは、株主に対し、当該消滅株式会社等が公正な価格と認める額を支払うことができる。
 株式買取請求に係る株式の買取りは、効力発生日に、その効力を生ずる。
 株券発行会社は、株券が発行されている株式について株式買取請求があったときは、株券と引換えに、その株式買取請求に係る株式の代金を支払わなければならない。

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