【2020年民法改正】弁済⑦―その他(新法§483,§484,§486,§492)【勉強ノート】

旧法§483(特定物の現状による引渡し)の位置づけ

旧法 新法
【483条】(特定物の現状により引渡し)
債権の目的が特定物の引渡しであるときは,弁済をする者は,その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。
【483条】(特定物の現状により引渡し)
債権の目的が特定物の引渡しである場合において,契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らしてその引渡しをすべき時の品質を定めることができないときは,弁済をする者は,その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。

 新法§483には,「契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らしてその引渡しをすべき時の品質を定めることができないときは」との文言が加えられています。

 これにより,債権の目的物が特定物の引渡しである場合は,引渡しをすべき時の現状で引き渡さなければならないとの規律は, 契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして引渡しをすべき時の品質を定めることができない場合についての補充的な規律とされました。

 なお,「発生原因」には,契約,契約解除による巻き戻し,非給付型の不当利得といった類型のみならず,有償か無償か,引渡しの対象となっている特定物の性質も含まれます。

 また,取引通念に照らして判断されることから,同業者の慣行,債務者の技能等が考慮されることになります。

弁済の時間

旧法 新法
【484条】(弁済の場所)
弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは,特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において,その他の弁済は債権者の現在の住所において,それぞれしなければならない。

【484条】(弁済の場所及び時間
1項:弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは,特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において,その他の弁済は債権者の現在の住所において,それぞれしなければならない。

2項:法令又は慣習により取引時間の定めがあるときは,その取引時間内に限り,弁済をし,又は弁済の請求をすることができる。

 旧商法§520は,「法令又は慣習により商人の取引時間の定めがあるときは,その取引時間内に限り,債務の履行をし,又はその履行の請求をすることができる。」と定めていました。

 この規律は,商行為によって生じた債務に対する弁済に限らず,弁済一般について妥当するものであることから,旧商法§520を削除し,一般法である民法に定めることにしました。

 そうして,新法§484Ⅱにおいて,「法令又は慣習により取引時間の定めがあるときは,その取引時間内に限り,弁済をし,又は弁済の請求をすることができる。」との定めが置かれることになりました。

弁済と受取証書の交付の関係

旧法 新法
【486条】(受取証書の交付請求)
弁済をした者は,弁済を受領した者に対して受取証書の交付を請求することができる。
【486条】(受取証書の交付請求)
弁済をする者は,弁済と引換えに弁済を受領する者に対して受取証書の交付を請求することができる。

 旧法§486は,弁済(債務の履行)が受取証書の交付よりも先履行の関係にある旨定められていました。

 しかし,債務の履行と受取証書の交付は同時履行の関係にあるというのが一般的な解釈等であったため,新法§486ではその旨が明確にされました。

弁済の提供の効果

旧法 新法
【492条】(弁済の提供の効果)
債務者は,弁済の提供の時から,債務の不履行によって生ずべき一切の責任を免れる。
【492条】(弁済の提供の効果)
債務者は,弁済の提供の時から,債務を履行しないことによって生ずべき責任を免れる。

 弁済提供の効果について,旧法§492では,「債務の不履行によって生ずべき一切の責任」とされていたのが,新法§492では,「債務を履行しないことによって生ずべき責任」に変更されました。

 旧法下では,債務者は,弁済の提供によって履行遅滞による債務不履行責任を免れるところ,旧法§492では,「一切の」責任を免れる旨の規定となっており,例えば,遅延損害金の不発生,危険の移転等は,受領遅滞(旧§413)の効果なのか,弁済提供の効果なのか不明確になっていました。

 そこで,新法では,受領遅滞に関する条文を整備した上で,新法§492に基づく弁済提供の効果は,契約の解除権や遅延損害金等の債務の履行をしないことによって生じる責任が発生しないということであることを明らかにすることにしました(債権者の同時履行の抗弁権の消滅も弁済提供によって導かれる効果ですが,その根拠条文は新法§533です)。

債務者の債務不履行責任の不発生
(ex. 解除権の不発生,遅延損害金の不発生)
弁済の提供 新法§492
債権者の同時履行の抗弁権の消滅 新法§533
特定物の引渡しの場合における注意義務の軽減 受領遅滞 新法§413
増加費用の債権者負担
目的物滅失等の場合における危険の移転 新法§413の2
「受領遅滞の効果」へ

確認問題〔弁済⑦―その他〕

新法に基づいて回答してください!(全4問)

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