【2020年民法改正】弁済⑥―弁済による代位【勉強ノート】

改正のポイント

 弁済による代位に関しては,①任意代位の要件,②法定代位権者が競合している場合の弁済による代位の要件,③一部弁済による代位の要件・効果,④担保保存義務違反によって免責される者の範囲・免責の例外等,改正事項は多岐にわたっています。

任意代位

旧法 新法

【499条】(任意代位)
1項:債務者のために弁済をした者は,その弁済と同時に債権者の承諾を得て,債権者に代位することができる。

2項:第四百六十七条の規定は,前項の場合について準用する。

【500条】(法定代位)
弁済をするについて正当な利益を有する者は,弁済によって当然に債権者に代位する。

【499条】(弁済による代位の要件)
債務者のために弁済をした者は,債権者に代位する。

【500条】
第四百六十七条の規定は,前条の場合(弁済をするについて正当な利益を有する者が債権者に代位する場合を除く。)について準用する。

 旧法§500が,弁済をするについて正当な利益を有する者が弁済し,債権者の承諾なくして債権者に代位できる旨を規定しているのに対し,旧法§499Ⅰは,弁済をするについて正当な利益を有しないものの,債務者の意思に反せずに弁済をした者が,債権者に代位するためには,弁済と同時に債権者から承諾を得ていたことが必要である旨を規定しています。

  • 旧法§499Ⅰ
     …弁済をするについて正当な利益を有しない者が,債務者の意思に反せず弁済した場合

      ⇒債権者への代位に債権者の承諾必要
  • 旧法§500
     …弁済をするについて正当な利益を有する者が弁済した場合
      ⇒債権者への代位に債権者の承諾不要

 しかし,弁済をするについて正当な利益を有する者の場合と区別して,弁済をするについて正当な利益を有しないものの,債務者の意思に反せずに弁済をした者については,債権者の承諾を得ることを要求することは疑問視されていました。

 債権者が,弁済者から弁済を受領して満足を得ていながら,その後の担保や保証等の帰趨について特に独自の利益を有していないのに,代位は拒否することができるということに合理性がないからです。

 そこで,新法§499では,弁済をするについて正当な利益を有しないが,債務者の意思に反せずに弁済をした者についても,債権者の承諾を得なくても,債権者に代位することができることとしました。

 こうして,弁済をするについて正当な利益を有するかどうかにかかわらず,弁済者が債権者に代位する場合には,債権者の同意を得る必要はなくなったため,旧法§499Ⅰと旧法§500を一本化し,単に「債務者のために弁済をした者は,債権者に代位する。」と定める新法§499が置かれることになりました。

 ただし,旧法§499Ⅱは維持されており,弁済をするについて正当な利益を有する者以外の者が債権者に代位する場合には,新法§467に基づく対抗要件を備える必要があります(新法§500)

  債権者の承諾 対抗要件の具備
弁済をするについて正当な利益を有する 不要 不要
弁済をするについて正当な利益を有しない 不要 必要

弁済による代位の効果・法定代位権者の競合

旧法 新法
【501条】(弁済による代位の効果)
前二条の規定により債権者に代位した者は,自己の権利に基づいて求償をすることができる範囲内において,債権の効力及び担保としてその債権者が有していた一切の権利を行使することができる。この場合においては,次の各号の定めるところに従わなければならない。
一 保証人は,あらかじめ先取特権,不動産質権又は抵当権の登記にその代位を付記しなければ,その先取特権,不動産質権又は抵当権の目的である不動産の第三取得者に対して債権者に代位することができない。
二 第三取得者は,保証人に対して債権者に代位しない。
三 第三取得者の一人は,各不動産の価格に応じて,他の第三取得者に対して債権者に代位する。
四 物上保証人の一人は,各財産の価格に応じて,他の物上保証人に対して債権者に代位する。
五 保証人と物上保証人との間においては,その数に応じて,債権者に代位する。ただし,物上保証人が数人あるときは,保証人の負担部分を除いた残額について,各財産の価格に応じて,債権者に代位する。
六 前号の場合において,その財産が不動産であるときは,第一号の規定を準用する。

【501条】(弁済による代位の効果)
1項:前二条の規定により債権者に代位した者は,債権の効力及び担保としてその債権者が有していた一切の権利を行使することができる。

2項:前項の規定による権利の行使は,債権者に代位した者が自己の権利に基づいて債務者に対して求償をすることができる範囲内(保証人の一人が他の保証人に対して債権者に代位する場合には,自己の権利に基づいて当該他の保証人に対して求償をすることができる範囲内)に限り,することができる。

3項:第一項の場合には,前項の規定によるほか,次に掲げるところによる。
一   第三取得者(債務者から担保の目的となっている財産を譲り受けた者をいう。以下この項において同じ。)は,保証人及び物上保証人に対して債権者に代位しない。
二   第三取得者の一人は,各財産の価格に応じて,他の第三取得者に対して債権者に代位する。
三   前号の規定は,物上保証人の一人が他の物上保証人に対して債権者に代位する場合について準用する。
四   保証人と物上保証人との間においては,その数に応じて,債権者に代位する。ただし,物上保証人が数人あるときは,保証人の負担部分を除いた残額について,各財産の価格に応じて,債権者に代位する。
五   第三取得者から担保の目的となっている財産を譲り受けた者は,第三取得者とみなして第一号及び第二号の規定を適用し,物上保証人から担保の目的となっている財産を譲り受けた者は,物上保証人とみなして第一号,第三号及び前号の規定を適用する。

相違点

 旧法§501に関し,いろいろ変更点がありますが,変更箇所をまとめると次のとおりです。

  • 旧法§501①,⑥の削除 …❶
  • 保証人の一人が他の保証人に対して債権者に代位する場合の権利行使の範囲の明文化(新法§501Ⅱ括弧書) …❷
  • 「第三取得者」の意義の明確化(新法§501Ⅲ①括弧書・⑤) …❸
  • 旧法§501②について,新法§501Ⅲ①で「及び物上保証人」との文言を追記 …❹
  • 旧法§501③の「不動産」という文言を,同号と同趣旨の新法§501Ⅲ②において「財産」へと変更 …❺
  • 「次の各号の定めるところに従わなければならない。」(旧法§501柱書後段)との表現を「次に掲げるところによる。」(新法§501Ⅲ柱書)へと変更 …❻

 以下,❶~❻についてそれぞれ説明をしたいと思います。

❶について

 旧法§501①は,保証人が担保の設定された債務者所有不動産の第三取得者に対して代位するには,あらかじめ付記登記をしておかなければならない旨定めていました。

 これは,被担保債権が消滅したことについての第三取得者の信頼を保護する趣旨だといわれています(付記登記をしていないと,第三取得者は被担保債権が消滅したと信じてしまうということ)

 しかし,例えば,債務者所有不動産に抵当権とその登記が設定され,その後,特にその抹消登記がされていないならば,第三取得者としては被担保債権は消滅していないと考えるのが通常ではないでしょうか。

 そうすると,上記の趣旨には合理性がありません。

 また,利益状況が類似する抵当権の被担保債権の譲渡による債権者の交替のケースにおいては,債権の譲受人は当該抵当権を実行するために付記登記は要しないことと整合しないことも指摘されていました。

 そこで,新法では,旧法§501①を削除することにし,保証人が担保の設定された債務者所有不動産の第三取得者に対して代位するにあたって,あらかじめ付記登記をしておく必要がなくなりました

 また,同号の削除に伴い,同条⑥も削除しました。

❷について

 新法§501Ⅱ括弧書は,弁済による代位が求償権確保のための制度であることに鑑み,複数の保証人のうち一人が弁済をした場合において,弁済をした保証人が他の保証人に対して債権者に代位することができる範囲が,他の保証人に対して求償可能な範囲であることを明らかにしたものです。

 例えば,3,000万円の主債務を,A・B・Cの3名の保証人が保証したとします。

 Aが3,000万円全額について保証債務を履行しました。

 そして,Aは,Bに対して代位することにしました。

 その場合,AがBに対して代位し,保証債務履行請求権を行使することができる範囲は,新法§501Ⅱ括弧書によれば,A・B・C間で特段の合意がない限り,1000万円(保証人の頭数で3,000万円を按分した額)になります。

❸について 

 担保目的物の第三取得者については,㋐債務者から担保目的物を譲り受けた者と㋑物上保証人から担保目的物を譲り受けた者を想定することができますが,新法§501Ⅲ①括弧書は,「第三取得者」を㋐債務者から担保目的物を譲り受けた者に限定しました(新法§501Ⅲ①括弧書)。

 したがって,㋑物上保証人から担保目的物を譲り受けた第三取得者は,ここに含まれません。

 この者は,同項⑤後段により,物上保証人とみなされるからです。

 なお,「第三取得者」には,債務者から直接に担保の目的物を譲り受けた者に限らず,その者の承継人や転得者も含まれます(同項⑤前段)。

❹について

 旧民法の起草者によると,旧法§501②の「保証人」に物上保証人も含めていたということだそうです。

 しかし,我々の通常の理解からすると,保証人と物上保証人とは別概念なので,新法§501Ⅲ①では,「及び物上保証人」との文言を加え,代位の相手方に物上保証人が含まれることを条文上明確にしました。

❺について

 旧法§501③の「不動産」という文言を,同号と同趣旨の規定である新法§501Ⅲ②において「財産」という文言へと変更しました。

 旧法§501①~③は,保証人と不動産の第三取得者,又は不動産の第三取得者どうしの関係を規律していたところ,前述のとおり,同条①が削除され,付記登記の具備が要件ではなくなったことにより,動産と不動産とで取扱いを区別する必要がなくなりました。

 そこで,旧法§501①~③に相当する新法§501Ⅲ①・②では,動産と不動産を区別することなく,「財産」とすることにしたのです。

❻について

 「次の各号の定めるところに従わなければならない。」(旧法§501柱書後段)との表現を「次に掲げるところによる。」(新法§501Ⅲ柱書)へと変更したのは,任意規定であることを明確にするためです。

一部弁済による代位

旧法 新法

【502条】(一部弁済による代位)
1項:債権の一部について代位弁済があったときは,代位者は,その弁済をした価額に応じて,債権者とともにその権利を行使する。

2項:前項の場合において,債務の不履行による契約の解除は,債権者のみがすることができる。この場合においては,代位者に対し,その弁済をした価額及びその利息を償還しなければならない。

【502条】(一部弁済による代位)
1項:債権の一部について代位弁済があったときは,代位者は,債権者の同意を得て,その弁済をした価額に応じて,債権者とともにその権利を行使することができる。

2項:前項の場合であっても,債権者は,単独でその権利を行使することができる。

3項:前二項の場合に債権者が行使する権利は,その債権の担保の目的となっている財産の売却代金その他の当該権利の行使によって得られる金銭について,代位者が行使する権利に優先する。

4項:第一項の場合において,債務の不履行による契約の解除は,債権者のみがすることができる。この場合においては,代位者に対し,その弁済をした価額及びその利息を償還しなければならない。

代位に係る権利の行使の要件

 大決昭和6年4月7日は,旧法§502Ⅰについて,一部弁済をした代位者も,単独で担保権を実行することができるとしていました。

 しかし,一部弁済をしたに過ぎない代位者に単独で担保権を実行することを認めると,債権者から担保権を実行して換価する時期を選択する利益を奪うことになります。

 そして,担保目的物の換価に適した時期が到来するよりも前に担保権が実行されてしまうことで,債権者が残りの債権全額を回収することができなくなってしまうかもしれません。

 このように一部弁済をした代位者に単独で担保権を実行することを認めることは,債権者の財産管理に対する過剰な介入であるといえます。

 そこで,新法§502Ⅰは,一部弁済をした代位者が,担保権等,代位に係る権利を行使するためには,債権者の同意を得ることを要求しました

 その上で,同条Ⅱでは,確認的に,一部弁済をした代位者がいる場合であっても,債権者は,単独でその権利を行使することができる旨定めています。

代位者と債権者の優劣関係

 新法では,最判昭和60年5月23日を踏まえ,新法§502Ⅰ,Ⅱの場合に,債権者が行使する権利は,その債権の担保の目的となっている財産の売却代金等について,一部弁済をした代位者が行使する権利に優先する旨の規定が新設されました(同条Ⅲ)。

担保保存義務

旧法 新法
【504条】(債権者による担保の喪失等)
第五百条の規定により代位をすることができる者がある場合において,債権者が故意又は過失によってその担保を喪失し,又は減少させたときは,その代位をすることができる者は,その喪失又は減少によって償還を受けることができなくなった限度において,その責任を免れる。

【504条】(債権者による担保の喪失等)
1項:弁済をするについて正当な利益を有する者(以下この項において「代位権者」という。)がある場合において,債権者が故意又は過失によってその担保を喪失し,又は減少させたときは,その代位権者は,代位をするに当たって担保の喪失又は減少によって償還を受けることができなくなる限度において,その責任を免れる。その代位権者が物上保証人である場合において,その代位権者から担保の目的となっている財産を譲り受けた第三者及びその特定承継人についても,同様とする。

2項:前項の規定は,債権者が担保を喪失し,又は減少させたことについて取引上の社会通念に照らして合理的な理由があると認められるときは,適用しない。

免責を主張することができる者の範囲

 新法では,最判平成3年9月3日を踏まえ,債権者が故意又は過失によってその担保を喪失し,又は減少させたことにより,物上保証人が,代位をするにあたって担保の喪失又は減少によって償還を受けることができなくなる限度において,その責任を免れる場合には,当該物上保証人から担保の目的となっている財産を譲り受けた第三者及びその特定承継人についても,同様の免責の効力を主張することができる旨の規定が新設されました(新法§504Ⅰ後段)。

担保保存義務の例外

 経営者の交替に伴って保証人が旧経営者から新経営者に交替する場合や,抵当権を設定している不動産を適正価格で売却し,その代金を債務の弁済に充てることを前提に,その抵当権を抹消する場合等,担保を喪失させ,又は減少させることに実益がある場合もあります。

 そこで,新法では,このような担保喪失・減少を円滑に実施することができるようにするため,「債権者が担保を喪失し,又は減少させたことについて取引上の社会通念に照らして合理的な理由があると認められるとき」は,新法§504Ⅰに基づく免責の効果は生じないこととしました(同条Ⅱ)。

要件事実

 準備中。

確認問題〔弁済⑥―弁済による代位〕

新法に基づいて回答してください!(全5問)

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