【2020年民法改正】契約の成立②―契約の成立要件【勉強ノート】

改正のポイント

 対話者に対する申込みに関する規律の新設,旧法§97Ⅱの適用範囲の拡張,隔地者に対する意思表示の効力発生時期に関して到達主義の採用等,さまざまな点で実質的内容が変更されており,また,契約の基礎的事項の改正であるため,実務に与える影響は大きいといわれています。

承諾期間の定めのある申込みの撤回(新法§523)

旧法 新法

【521条】(承諾の期間の定めのある申込み)
1項:承諾の期間を定めてした契約の申込みは,撤回することができない。

2項:(省略)

【523条】(承諾の期間の定めのある申込み)
1項:承諾の期間を定めてした申込みは,撤回することができない。ただし,申込者が撤回をする権利を留保したときは,この限りでない。

2項:(省略)

 新法§523Ⅰ本文では,旧法§521Ⅰの承諾期間を定めてした契約の申込みは撤回できない旨の規律を維持した上で,同項但書において,申込者が撤回をする権利を留保していた場合は,承諾期間を定めてした申込みであっても,撤回することができる旨の規定を新設しました。

 承諾期間中であっても,申込みが撤回される可能性があることがあらかじめ相手方に示されているのであれば,撤回をしても,相手方に不当な損害を及ぼすとはいえないからです。

承諾期間を定めない対話者に対する申込み(新法§525)

旧法 新法
【524条】(承諾の期間の定めのない申込み)
承諾の期間を定めないで隔地者に対してした申込みは,申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは,撤回することができない。

【525条】(承諾の期間の定めのない申込み)
1項:承諾の期間を定めないでした申込みは,申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは,撤回することができない。ただし,申込者が撤回をする権利を留保したときは,この限りでない。

2項:対話者に対してした前項の申込みは,同項の規定にかかわらず,その対話が継続している間は,いつでも撤回することができる。

3項:対話者に対してした第一項の申込みに対して対話が継続している間に申込者が承諾の通知を受けなかったときは,その申込みは,その効力を失う。ただし,申込者が対話の終了後もその申込みが効力を失わない旨を表示したときは,この限りでない。

 旧法§524は隔地者に対する申込みについて定めており,旧法では対話者に対する申込みについて定めた規定は設けられていませんでした。

 そこで,新法では,対話者に対する申込みに関する規定が新設されました。

 まず,一般的な解釈に従い,対話者に対し承諾の期間を定めないでした契約の申込みは,対話が継続している間は,いつでも撤回することができる旨の規定が新設されました(新法§525Ⅱ)

 また,大判明治39年11月2日に従い,上記の場合において,申込者が,結局,対話継続中に相手方から承諾の通知を受けることがなかった場合には,申込みが効力を失う旨の規定も新設されています(同条Ⅲ本文)

 もっとも,申込者が,対話終了後も申込みは失効しない旨を表示した場合は,対話終了後もその申込みは効力が存続します(同項但書)

 なお,この場合,申込者は,撤回をする権利を留保したときを除き,承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは,その申込みを撤回することができません(同条Ⅰ)

申込者が死亡等をした場合の意思表示の効力(新法§526)

旧法 新法

【525条】(申込者の死亡又は行為能力の喪失)
第九十七条第二項の規定は,申込者が反対の意思を表示した場合又はその相手方が申込者の死亡若しくは行為能力の喪失の事実を知っていた場合には,適用しない。

【97条】(隔地者に対する意思表示)
1項:(省略)
2項:隔地者に対する意思表示は,表意者が通知を発した後に死亡し,又は行為能力を喪失したときであっても,そのためにその効力を妨げられない。

【526条】(申込者の死亡等)
申込者が申込みの通知を発した後に死亡し意思能力を有しない常況にある者となり,又は行為能力の制限を受けた場合において,申込者がその事実が生じたとすればその申込みは効力を有しない旨の意思を表示していたとき,又はその相手方が承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知ったときは,その申込みは,その効力を有しない

適用期間

 旧法§525は,隔地者に対して契約の申込みの通知を発信した後に,申込者が死亡し,又は行為能力を喪失した場合に関し,旧法§97Ⅱの特例を設け,㋐申込者が反対の意思を表示していたときや,㋑相手方がその申込者の死亡等の事実を知っていたときは,同項の適用を排除し,例外的にその申込みの効力を否定していました。

 では,隔地者に申込みの通知が到達した後に,申込者に死亡等の事実が生じた場合に,㋐や㋑の事由が認められるときはどうなるのでしょうか。

 前述の申込みの通知の発信後到達前に申込者の死亡等の事実が生じた場合と同様に,㋐や㋑の事由が認められる以上,申込みの効力は否定すべきだとも考えられますし,一方で,もう申込みの通知が相手方に到達してしまった以上,その後,申込者がどうなろうと申込みは有効だとも考えられます。

 ところが,この点について,旧法は特に何も規定していませんでした。

 そこで,新法では,死亡等の事実が生じたのが到達の前であったか否かで大きく効果を異ならせる合理的な理由がないとして,「承諾の通知を発するまで」との文言を追記することにより,通知が到達した後に申込者が死亡等した場合を含め,上記特例を適用し,申込みの効力を否定することを明らかにしました(新法§526)

申込みの相手方の範囲の拡張

 また,新法では,対話者に対して申込みがなされ,後日,承諾の意思表示をすることとされていた場合に,承諾前に申込者が死亡等するケースを想定し,申込みの通知の相手方を隔地者に限定せず,対話者も含めています。

申込者の状態

 さらに,申込者に生じた事実について,旧法では「行為能力を喪失したとき」とされていたのが,新法では「意思能力を有しない常況にある者となり,又は行為能力の制限を受けた場合」に変更されています。

 これは,申込者が意思能力を有しない常況にある者になった場合と,申込者が被保佐人又は被補助人になった場合も適用対象であることを明確にする趣旨の改正です。

分かりやすい民法の実現の見地からの改正

 旧法の「申込者が反対の意思を表示した場合」との文言が,その意味内容を分かりやすくするため,新法では「申込者がその事実が生じたとすればその申込みは効力を有しない旨の意思を表示していたとき」に変更されています。

対象 旧法 新法
適用期間 申込み発信から到達まで? 申込み発信から承諾発信まで
申込者の状態 ・死亡
・行為能力の喪失
・死亡
行為能力の制限
意思能力喪失の常況
相手方の状況 隔地者 ・隔地者
・対話者
適用要件 ・相手方が申込者の死亡等の事実を知った場合
・申込者が旧法§97Ⅱと反対の意思表示をした場合
・相手方が申込者の死亡等の事実を知った場合
・申込者において,申込者が死亡等の事実が生じれば効力を生じない旨の意思表示をした場合

隔地者に対する意思表示の効力発生時期(新法§97Ⅰ)

旧法 新法

【522条】(承諾の通知の延着)
1項:前条第一項の申込みに対する承諾の通知が同項の期間の経過後に到達した場合であっても,通常の場合にはその期間内に到達すべき時に発送したものであることを知ることができるときは,申込者は,遅滞なく,相手方に対してその延着の通知を発しなければならない。ただし,その到達前に遅延の通知を発したときは,この限りでない。

2項:申込者が前項本文の延着の通知を怠ったときは,承諾の通知は,前条第一項の期間内に到達したものとみなす。

削除
【526条】(隔地者間の契約の成立時期)
1項:隔地者間の契約は,承諾の通知を発した時に成立する。
2項:(省略)
【97条】(意思表示の効力発生時期等)
1項:意思表示は,その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
2項・3項:(省略)

【527条】(申込みの撤回の通知の延着)
1項:申込みの撤回の通知が承諾の通知を発した後に到達した場合であっても,通常の場合にはその前に到達すべき時に発送したものであることを知ることができるときは,承諾者は,遅滞なく,申込者に対してその延着の通知を発しなければならない。

2項:承諾者が前項の延着の通知を怠ったときは,契約は,成立しなかったものとみなす。

削除

 隔地者に対する意思表示の効力発生時期について,旧法§526Ⅰは発信主義を採用していましたが,新法では,同項を削除し,意思表示一般について到達主義を採用する新法§97Ⅰに一本化しました。

  旧法 新法
申込み 隔地者間では到達主義(§97Ⅰ)
(対話者間について定めなし)
隔地者か否かを問わず到達主義(§97Ⅰ)
承諾 隔地者間では発信主義(§526Ⅰ)
(対話者間について定めなし)

 このように隔地者に対する意思表示の効力発生時期についても到達主義を採用することとした理由は,現代社会においては,通信技術の発達により,隔地者に対する意思表示であっても,対話者に対する意思表示とほとんど変わらないくらい迅速かつ確実に隔地者に到達するようになったことと,発信主義を採用することにより,何らかの障害により承諾の通知が申込者に到達しなかった場合でも,契約が成立してしまうため,申込者が不測の損害を被るおそれがあることにあります。

 また,以上のとおり,隔地者に対する意思表示の効力発生時期についても到達主義が採用されたことにより,承諾の意思表示を撤回することができるかどうかは,承諾の意思表示と撤回の意思表示のどちらが先に申込者に到達するかで決せられることになります。

 さらに,旧法§526Ⅰの削除に伴い,設けておく実益が乏しくなった旧法§522と旧法§527も削除されました。

 

確認問題〔契約の成立②―契約の成立要件〕

新法に基づいて回答してください!(全4問)

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