【2020年民法改正】雇用【勉強ノート】

改正のポイント

 雇用に関しては,①報酬や②雇用の解除・解約に関して基本的に労働者に有利な改正が行われています。しかし,民法上の雇用に関する規定が適用される場面は限定的であるため,本改正が実務に与える影響は小さいといわれています。

報酬

旧法 新法
規定なし 【624条の2】(履行の割合に応じた報酬)
労働者は,次に掲げる場合には,既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。
一   使用者の責めに帰することができない事由によって労働に従事することができなくなったとき。
二   雇用が履行の中途で終了したとき。

 新法では,次に掲げる場合のいずれかに該当するときは,すでにした履行の割合に応じて報酬を請求することができる旨の規定が新設されました(新法§624の2)。

  • 使用者の責めに帰することができない事由によって労働に従事することができなくなった場合
  • 雇用が履行の中途で終了した場合

 なお,使用者に帰責事由がある場合には,危険負担の規定(新法§536Ⅱ)が適用され,労働に従事していない部分も含めて報酬全額の請求をすることができます。

  使用者に帰責事由あり 労働者に帰責事由あり 双方に帰責事由なし
旧法 報酬全額の請求が可能
(旧法§536Ⅱ)
割合報酬の請求が可能
(解釈)
割合報酬の請求が可能
(解釈)
新法 報酬全額の請求が可能
(新法§536Ⅱ)
割合報酬の請求が可能
(新法§624の2)
割合報酬の請求が可能
(新法§624の2)

雇用の解除・解約

雇用の解除

旧法 新法

【626条】(期間の定めのある雇用の解除)
1項:雇用の期間が五年を超え,又は雇用が当事者の一方若しくは第三者の終身の間継続すべきときは,当事者の一方は,五年を経過した後,いつでも契約の解除をすることができる。ただし,この期間は,商工業の見習を目的とする雇用については,十年とする。

2項:前項の規定により契約の解除をしようとするときは,三箇月前にその予告をしなければならない。

【626条】(期間の定めのある雇用の解除)
1項:雇用の期間が五年を超え,又はその終期が不確定であるときは,当事者の一方は,五年を経過した後,いつでも契約の解除をすることができる。

2項:前項の規定により契約の解除をしようとする者は,それが使用者であるときは三箇月前,労働者であるときは二週間前に,その予告をしなければならない。

 新法では,期間の定めのある雇用について,その期間を当事者等の終身の間とする場合だけでなく,期間の終期が不確定である場合一般について,その期間が長期にわたることによる弊害を防止するため,当事者の一方は,5年を経過した後,いつでも契約の解除をすることができるとしています(新法§626Ⅰ)。

 また,商工業の見習を目的とする雇用の解除に関する特則(旧法§626Ⅰ但書)が削除されました。立法当時に想定された幼年の労働者の見習を目的とした長期にわたる契約が現代では見られなくなるなど規定の必要性が失われたからです。

 さらに,旧法では,期間の定めのある雇用について,労働者及び使用者のいずれが解除する場合でも3か月前にその予告をしなければならないとしていましたが(旧法§626Ⅱ),新法では,労働者からの解除については,2週間前にその予告をすれば足りるとしています(新法§626Ⅱ)。

 なお,新法§626が適用される雇用契約は,労働基準法が適用されない「事業に使用されない」労働者(労基法§9)や「同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人」(労基法§116Ⅱ)等との雇用契約に限られており,現代社会における雇用契約の大半は労働基準法が適用される労働契約です。

 そして,労働基準法が適用される労働契約の解除には労基法§137が適用されるため,旧法§626の改正が実務に与える影響は小さいといえます。

  旧法 新法
使用者 3か月前に解除予告 3か月前に解除予告
労働者 3か月前に解除予告 2週間前に解除予告

雇用の解約

旧法 新法

【627条】(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
1項:当事者が雇用の期間を定めなかったときは,各当事者は,いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において,雇用は,解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

2項:期間によって報酬を定めた場合には,解約の申入れは,次期以後についてすることができる。ただし,その解約の申入れは,当期の前半にしなければならない。

3項:六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には,前項の解約の申入れは,三箇月前にしなければならない。

【627条】(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
1項:当事者が雇用の期間を定めなかったときは,各当事者は,いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において,雇用は,解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

2項:期間によって報酬を定めた場合には,使用者からの解約の申入れは,次期以後についてすることができる。ただし,その解約の申入れは,当期の前半にしなければならない。

3項:六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には,前項の解約の申入れは,三箇月前にしなければならない。

 旧法では,期間の定めのない雇用のうち,期間によって報酬を定めたものについて,労働者・使用者のいずれが解約の申入れをする場合でも,6か月未満の期間によって報酬を定めた場合には当期の前半に次期以後の解約の申入れをすることが,6か月以上の期間によって報酬を定めた場合には3か月前に解約の申入れをすることが,それぞれ必要でした(旧法§627Ⅱ,Ⅲ)。

 しかし,新法では,労働者からの解約の申入れについては,いつでも解約の申入れができ,申入れの日から2週間を経過することによって雇用が終了するとしています(新法§627)。

 かかる改正の理由は次のように説明されています。

  •  6か月未満の期間によって報酬を定めた場合に,解約の申入れがされたのが当期の前半か後半かによって雇用の終了時期が大きく異なることは必ずしも合理的とはいえない。
  •  6か月以上の期間によって報酬を定めた場合に,労働者が退職を決意しているのに,契約の終了が3か月後となるというのでは,労働者の自由が過度に制約されており,この期間を短くすることが相当である。
  •  他方で,報酬が労働者の生活の糧となっていことに照らすと,使用者による解約の申入れについて,この期間が短くなることは,労働者に不利益が大きい。

 もっとも,新法§627についても,同条が適用される雇用契約は,労働基準法が適用されない「事業に使用されない」労働者(労基法§9)や「同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人」(労基法§116Ⅱ)等との雇用契約に限られており,現代社会において雇用契約の大半を占める労働契約の解約には労基法§20が優先的に適用されます。

 したがって,本改正の実務への影響はきわめて限定的といえます。

  旧法 新法
6か月未満の期間によって報酬を定めた場合 6か月以上の期間によって報酬を定めた場合 6か月未満の期間によって報酬を定めた場合 6か月以上の期間によって報酬を定めた場合
使用者 当期前半に次期以後の解約申入れ 当期満了の3か月前に解約申入れ 当期前半に次期以後の解約申入れ 当期満了の3か月前に解約申入れ
労働者 当期前半に次期以後の解約申入れ 当期満了の3か月前に解約申入れ いつでも解約申入れ可
申入日から2週間経過により雇用終了

確認問題〔雇用〕

新法に基づいて回答してください!(全3問)

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