【2020年民法改正】請負【勉強ノート】

改正のポイント

 請負については,例えば,新法が契約責任説を採用し,売買の担保責任に関する規定が大幅に見直されたことに伴い,請負の担保責任に関する規定も見直し,従来の規定が大幅に削除され,請負にも,損害賠償請求や契約解除の一般規定や売買の担保責任に関する規定が準用されることとなりました(新法§559)。また,新法§637Ⅰは,注文者が請負人に担保責任を追及するためには,注文者が仕事の目的物の種類や品質に関する契約不適合の事実を知った時から1年以内にその旨を請負人に通知することを注文者に要求しているため,従来の実務の運用に影響を及ぼすことになりそうです。

報酬

旧法 新法
規定なし 【634条】(注文者が受ける利益の割合に応じた報酬)
次に掲げる場合において,請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは,その部分を仕事の完成とみなす。この場合において,請負人は,注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。
一   注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。
二   請負が仕事の完成前に解除されたとき。

 新法では,次に掲げる場合のいずれかに該当する場合は,すでにされた仕事の結果のうち,可分な部分の給付によって注文者が利益を受けているならば,その部分を仕事の完成とみなし,請負人は,その利益の割合に応じて報酬を請求することができる旨の規定が新設されました(新法§634)。

  • 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなった場合
  • 請負が仕事の完成前に解除された場合

 一方,注文者に帰責事由がある場合には,危険負担の規定(新法§536Ⅱ)が適用され,仕事が未了の部分も含めて報酬全額の請求をすることができます。ただし,自己の残債務を免れたことによる利益の償還は必要です(最判昭和52年2月22日)

  注文者に帰責事由あり 請負人に帰責事由あり 双方に帰責事由なし
旧法 報酬全額の請求が可能
(旧法§536Ⅱ)
割合報酬の請求が可能
(解釈)
割合報酬の請求が可能
(解釈)
新法 報酬全額の請求が可能
(新法§536Ⅱ)
割合報酬の請求が可能
(新法§634)
割合報酬の請求が可能
(新法§634)

担保責任

担保責任規定の削除

旧法 新法

【634条】(請負人の担保責任)
1項:仕事の目的物に瑕疵があるときは,注文者は,請負人に対し,相当の期間を定めて,その瑕疵の修補を請求することができる。ただし,瑕疵が重要でない場合において,その修補に過分の費用を要するときは,この限りでない。

2項:注文者は,瑕疵の修補に代えて,又はその修補とともに,損害賠償の請求をすることができる。この場合においては,第五百三十三条の規定を準用する。

削除
【635条】
仕事の目的物に瑕疵があり,そのために契約をした目的を達することができないときは,注文者は,契約の解除をすることができる。ただし,建物その他の土地の工作物については,この限りでない。
削除

瑕疵修補請求

 旧法では,仕事の目的物に瑕疵があるときは,注文者は請負人に対して瑕疵修補請求ができるとした上で,その瑕疵が重要である場合には,その修補に過分の費用を要するときであっても,請負人が修補義務を免れないとしていました(旧法§634Ⅰ)。

 しかし,新法では,旧法§634Ⅰは削除され,売買における追完請求に関する新法§562が準用されています(新法§559)

 このような改正が行われた理由は次のとおりです。

 現代社会においては,建築技術の進歩等により,高額の費用をかければ,瑕疵を修補できる場面も想定されるようになりました。そうすると,瑕疵が重要なものであれば,請負人は高額の費用を支出して,当該瑕疵を修補しなければならず,請負人の負担が過大となる場合が生じ得る状況となっていました。そこで,このように請負人に過大な負担を課すのは妥当ではないとして,旧法§634Ⅰを削除したのです。

損害賠償請求

 旧法では,注文者は,仕事の目的物に瑕疵があるときは,修補に代えて,又はその修補とともに,損害賠償請求をすることができるとされていました(旧法§634Ⅱ)。

 しかし,新法では,同項は削除され,債務不履行の一般的な規定が適用されることになりました(新法§559・§564・§415Ⅰ)

解除の特則

 旧法§635は,建物その他の土地の工作物以外の仕事の目的物に瑕疵があり,そのために契約目的を達成することができない場合は,契約を解除することができる旨定めていましたが,新法では,同条は削除されました。

 同条が削除された理由は次のとおりです。

 旧法§635は,上記のとおり,契約解除に特に債務者の帰責事由を要求していません。これに対し,旧法下の一般の債務不履行解除は債務者の帰責事由を要求していましたので,旧法§635は債務不履行解除の特則であると解されていました。

 しかし,新法では,一般の債務不履行解除についても,債務者の帰責事由を不要としました(新法§541~§543)。

 その結果,旧法§635本文は,存在意義を失いました。

 また,旧法§635但書も削除されていますが,そもそも旧法§635但書の趣旨は,土地の工作物の除去されることによる社会経済的な損失が大きいため,その発生を防止することや,解除によって土地の工作物を除去する義務を負担することが請負人にとって過酷であるため,このような負担を請負人に負わせないことにありました。

 しかし,契約目的の達成を期待できないような重大な瑕疵のある土地の工作物を解除を制限して維持したとしても,注文者がこれを利用して社会経済的な利益の増進が図られるとは限らないので,上記の趣旨に合理性があるとは必ずしもいえません。

 また,最判平成14年9月24日も,建物請負の目的物に重大な瑕疵があるために建て替えざるを得ない場合は,注文者が請負人に対して立替費用相当額の損害賠償を請求することができるとしており,このような損害賠償請求はできるのに,契約解除はできないことの説明がつきません。

 そこで,旧法§635但書も削除することとし,これにより,仕事の目的物が土地の工作物の場合も,契約解除が制限されなくなりました。

小括

 新法では,請負人の担保責任に関し,基本的に売買の担保責任と同様の規律が及ぶこととなったため,注文者は,仕事の目的物が契約の内容に適合しない場合には,以下の手段をとることができます。

  • 履行の追完請求(新法§559・§562)
  • 代金減額請求(新法§559・§563)
  • 損害賠償請求(新法§559・§564・§415)
  • 契約解除(新法§559・§564・§541,§542)

担保責任の各種制限

担保責任の制限

旧法 新法
【636条】(請負人の担保責任に関する規定の不適用)
前二条の規定は,仕事の目的物の瑕疵が注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じたときは,適用しない。ただし,請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは,この限りでない。
【636条】(請負人の担保責任の制限)
請負人が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を注文者に引き渡したとき(その引渡しを要しない場合にあっては,仕事が終了した時に仕事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないとき)は,注文者は,注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じた不適合を理由として,履行の追完の請求,報酬の減額の請求,損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし,請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは,この限りでない。

 規定内容は,旧法§636と新法§636で大きく変わりませんが,担保責任に関する旧法§634や旧法§635が削除されたことに伴い,旧法のように担保責任の根拠規定が適用されない旨を定める形式を改め,新法§636は,「請負人が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を注文者に引き渡したとき(その引渡しを要しない場合にあっては,仕事が終了した時に仕事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないとき)は,注文者は,注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じた不適合を理由として,履行の追完の請求,報酬の減額の請求,損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。」とされました。

 ちなみに,新法§636は,請負においては,注文者の供給した材料を加工したり,注文者から指図を受けたりすることが少なくないことから,より具体的なルールを設けたという趣旨の規定です。

 したがって,注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって不適合が生じた場合には,一般的なルールである新法§562Ⅱや新法§563Ⅲではなく,新法§636により,追完請求や報酬減額請求の可否が決まるとされています。

担保責任の期間制限

旧法 新法

【637条】(請負人の担保責任の存続期間)
1項:前三条の規定による瑕疵の修補又は損害賠償の請求及び契約の解除は,仕事の目的物を引き渡した時から一年以内にしなければならない。

2項:仕事の目的物の引渡しを要しない場合には,前項の期間は,仕事が終了した時から起算する。

【637条】(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)
1項:前条本文に規定する場合において,注文者がその不適合を知った時から一年以内にその旨を請負人に通知しないときは,注文者は,その不適合を理由として,履行の追完の請求,報酬の減額の請求,損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。

2項:前項の規定は,仕事の目的物を注文者に引き渡した時(その引渡しを要しない場合にあっては,仕事が終了した時)において,請負人が同項の不適合を知り,又は重大な過失によって知らなかったときは,適用しない。

 担保責任の期間制限に関して,旧法では,仕事の目的物に瑕疵があったときは,注文者は目的物の引渡時又は仕事終了時から1年以内に瑕疵の修補,契約解除もしくは損害賠償請求をしなければならないとしていました(旧法§637)。

 しかし,これでは,注文者が瑕疵の存在を知らない場合でも,引渡時等から1年が経過すれば,担保責任を追及することができなくなってしまうため,注文者に酷です。

 そこで,新法では,注文者は,目的物の種類又は品質に関して仕事の目的物が契約の内容に適合しないことを知った時から1年以内にその旨を請負人に通知しなければ,その権利を行使することができないとしています(新法§637Ⅰ)。

 もっとも,請負人が引渡時又は仕事終了時に仕事の目的物が契約の内容に適合しないことを知り,又は重大な過失によって知らなかったときは,そのような請負人を保護すべき理由はないから,この期間制限は適用がないともされています(同条Ⅱ)。

削除された規定

旧法 新法

【638条】
1項:建物その他の土地の工作物の請負人は,その工作物又は地盤の瑕疵について,引渡しの後五年間その担保の責任を負う。ただし,この期間は,石造,土造,れんが造,コンクリート造,金属造その他これらに類する構造の工作物については,十年とする。

2項:工作物が前項の瑕疵によって滅失し,又は損傷したときは,注文者は,その滅失又は損傷の時から一年以内に,第六百三十四条の規定による権利を行使しなければならない。

削除
【639条】(担保責任の存続期間の伸長)
第六百三十七条及び前条第一項の期間は,第百六十七条の規定による消滅時効の期間内に限り,契約で伸長することができる。
削除
【640条】(担保責任を負わない旨の特約)
請負人は,第六百三十四条又は第六百三十五条の規定による担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても,知りながら告げなかった事実については,その責任を免れることができない。
削除

 今回の改正で,旧法§638,旧法§639及び旧法§640が削除されました。

 旧法§638は,土地の工作物の瑕疵は,土地の工作物の引渡しから長期間経過後に発見される場合も少なくないことから,長期の担保責任の存続期間を定めるとともに,更にその特則として,土地の工作物が瑕疵によって滅失又は損傷した場合には短期で存続期間が終了する旨定めたものです。しかし,新法下では,新法§637Ⅰが設けられたため,注文者が契約不適合の事実を知らないまま担保責任の存続期間が終了するという事態は起こり得ません。そこで,旧法§638を残しておく意義が乏しいことから,同条を削除しました。

 次に,旧法§639が削除された理由は,㋐売買の瑕疵担保責任や使用貸借・賃貸借の費用償還請求権(旧法§600,§621)等について合意による期間の伸長ができると一般に解されているにもかかわらず,旧法§639を存続させることで,特則がない限り期間の伸長が認められないとの反対解釈を招くおそれがあるため,このようなおそれを排除すること,㋑存続期間の伸長の範囲を消滅時効の期間内に限る旨の規定がなくても,別途消滅時効の規定が適用されることで存続期間が長期にわたることに伴う紛争を防止することはできるため,実質的な不都合は生じないことが理由です。

 最後に,旧法§640が削除された理由については,新法§559により,新法§572(担保責任を負わない旨の特約)も請負に準用されるため,旧法§640を存置させる必要性がないからです。

新法§572(担保責任を負わない旨の特約)

売主は,第562条第1項本文又は第565条に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても,知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については,その責任を免れることができない。

破産手続開始による解除

旧法 新法

【642条】(注文者についての破産手続の開始による解除)
1項:注文者が破産手続開始の決定を受けたときは,請負人又は破産管財人は,契約の解除をすることができる。この場合において,請負人は,既にした仕事の報酬及びその中に含まれていない費用について,破産財団の配当に加入することができる。

2項:(省略)

【642条】(注文者についての破産手続の開始による解除)
1項:注文者が破産手続開始の決定を受けたときは,請負人又は破産管財人は,契約の解除をすることができる。ただし,請負人による契約の解除については,仕事を完成した後は,この限りでない。

2項:前項に規定する場合において,請負人は,既にした仕事の報酬及びその中に含まれていない費用について,破産財団の配当に加入することができる。

3項:(省略)

 旧法下においては,注文者が破産手続開始の決定を受けた場合に請負人が有する解除権(旧法§642)について,文言上の限定がないために仕事の完成後であってもこれを行使することができると解されていました。

 しかし,仕事の完成後には請負人が仕事の完成に向けて新たな役務の提供をすることがなく,損害の拡大を避けるために契約の解除を認める必要はありません。

 そこで,新法では,仕事の完成後は,請負人は破産手続開始による解除をすることができないとしています(新法§642Ⅰ但書)。

確認問題〔請負〕

新法に基づいて回答してください!(全3問)

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