【改正会社法】社債管理補助者制度の新設・社債権者集会に関する改正【2021年3月1日施行】

改正の骨子

  • 会社が、社債権者のために、社債権者による社債の管理の補助を行うことを第三者に委託する「社債管理補助者制度」が新設され、その規律が整備されました(改正法§714の2~§714の7)。
  • 社債権者集会の決議により、社債の全部について、その債務の全部又は一部の免除をすることができる旨の解釈が明文化されました(改正法§706Ⅰ①)。
  • 社債権者集会の目的である事項に関する提案につき議決権を行使することができる社債権者の全員が書面等により同意の意思表示をした場合は、当該提案を可決する旨の社債権者集会の決議があったものとみなされることとされました(改正法§735の2Ⅰ)。

「社債管理補助者制度」の新設

⑴ 「社債管理補助者制度」の概要

 本改正では、会社が、社債権者のために、社債権者による社債の管理の補助を行うことを第三者に委託する「社債管理補助者制度」が新設されました(改正法§714の2本文)。

 これは、実務上、社債管理者の確保が困難である一方[1]、社債権者にとって社債管理を第三者に補助してもらうことにニーズがあったことから、創設されたものです。

⑵ 社債管理補助者を設置することができる場合

 次の①及び②を充足する場合にのみ、社債権者は、社債管理補助者を設置することができます(改正法§714の2,§702但書,改正施行規則§169)。

  • 社債管理者を定めることを要しない場合(=㋐又は㋑を充足する場合)
    ㋐各社債の金額が1億円以上である場合
    ㋑ある種類の社債の総額を当該種類の各社債の金額の最低額で除して得た数が50を下回る場合
  • 社債権者の有する社債が担保付社債でない場合[2]

 なお、社債管理補助者のある社債について、後に社債管理者又は受託会社が定められ、当該社債管理者との委託契約[3]又は当該信託会社との信託契約[4]の効力が発生した場合は、その時点で当該社債管理補助者との委託契約は終了します(改正法§714の6)。


[1] 日本で発行される社債の約8割は、社債管理者が設置されていないようです(商事法務研究会「会社法研究資料4」1頁)。
[2] 担保付社債の管理については、信託会社との間で信託契約を締結しなければならず、受託会社が担保付社債の管理を行います(担保付社債信託法§35)。したがって、社債権者の有する社債が担保付社債である場合、社債権者が自ら当該社債を管理しない以上、社債権者の社債管理の補助を職責とする社債管理補助者の出る幕はありません。
[3] 改正法§702。
[4] 担保付社債信託法§2Ⅰ。

⑶ 社債管理補助者になることができる者の範囲

 以下の者が社債管理補助者になることができます(改正法§714の3,改正施行規則§170,§171の2)。①が社債管理者になることができる者であり、社債管理補助者になることができる者の範囲は、社債管理者になることができる者の範囲よりも広くなっています。

  • ① 銀行、信託会社及び会社法施行規則§170で定める者
  • ② 弁護士及び弁護士法人[1]

[1] 弁護士等が社債管理補助者となった場合の実務対応のルールを定めるものとして、日本弁護士連合会「社債管理補助者に関する指針」(2020年2月21日)

⑷ 社債管理補助者を設置するために必要な手続

ア 募集事項として定めるべき事項の追加

 社債管理補助者を設置する場合には、社債を引き受ける者を募集するにあたり、次の㋐~㋓が、募集事項として定めるべき事項に新たに付け加えられました(改正法§676⑦の2,⑧の2,改正施行規則§162⑥,⑦)[1]

  • ㋐ 社債管理者を定めないこととする旨
  • ㋑ 社債管理補助者を定めることとする旨
  • ㋒ 社債管理補助者との委託契約において約定権限として列挙されている権限(改正法§714の4Ⅱ各号)及び法定権限以外の権限を定めるときは、その権限の内容
  • ㋓ 社債管理補助者との委託契約における社債権者に対する報告又は社債権者が知ることができるようにする措置に係る定めの内容

 なお、この規律は、改正法の施行後である2021年3月1日以後に募集事項の決定があった場合に適用されます(改正法附則§8Ⅰ,改正省令附則§2⑬)。そして、この経過措置により、社債管理者を定めないで発行された社債について、社債管理者を定めないこととする旨を募集事項において定めていなくとも、社債管理者を定めないこととする旨の定めがあるものとみなされることとされています(改正法附則§8Ⅱ)[2]


[1] 株式会社がその発行する新株予約権を引き受ける者を募集しようとする場合であって、当該新株予約権が新株予約権付社債に付されたものであるときも、同様の事項を定める必要があります(改正法§238Ⅰ⑥,§676⑦の2,⑧の2)。
[2] 改正法施行前から存在する社債についても、同様に社債管理者を定めないこととする旨の定めがあるものとみなされます。

イ 社債原簿の記載事項の追加

 社債原簿の記載事項である「社債の内容を特定するもの」として、次の㋐~㋒が追加されました(改正法§681①,改正施行規則§165⑥,⑧,⑪)。

  • ㋐ 社債管理者を定めないこととするときは、その旨
  • ㋑ 社債管理補助者を定めることとするときは、その旨
  • ㋒ 社債管理補助者を定めたときは、その氏名又は名称及び住所並びに社債管理補助者との委託契約の内容

⑸ 社債管理補助者が有する権限の内容

 社債管理補助者は、以下の行為を行う権限を有しています(改正法§714の4Ⅰ~Ⅲ,§724Ⅱ②,§740Ⅱ,Ⅲ等)[1]

行為 委託契約での
定めの要否
社債権者集会
決議の要否
 破産手続、再生手続又は更生手続への参加
強制執行又は担保権の実行手続での配当要求
清算手続での債権の申出(法§499Ⅰ)
資本金等の額の減少、組織変更、会社分割、合併等について社債発行会社から催告を受けること(ただし、当該催告に対して異議を述べることはできない)
社債権者から社債権者集会の招集の請求を受けた場合又は辞任するにあたり社債権者集会の同意を得るため必要がある場合に、社債権者集会を招集すること(改正法§717Ⅲ)
招集の通知を受けた社債権者集会に出席等すること(改正法§729Ⅰ)
社債発行会社の営業時間において、社債権者集会の議事録の閲覧等を請求すること(改正法§731Ⅲ)
×
×
 社債に係る債権の弁済を受けること
社債権者のために社債に係る債権の弁済を受け、又は社債に係る債権の実現を保全するために必要な一切の裁判上又は裁判外の行為(①~④,⑩~⑫の行為を除く)

(委託契約に定める範囲内で可)
×
 ⑨の行為のうち、当該社債の全部についてするその支払の請求
⑨の行為のうち、当該社債の全部に係る債権に基づく強制執行、仮差押え又は仮処分
⑨の行為のうち、当該社債の全部についてする訴訟行為又は破産手続、再生手続、更生手続若しくは特別清算に関する手続に属する行為(⑩・⑪の行為を除く)
当該社債の全部についてするその支払の猶予、その債務の不履行によって生じた責任の免除又は和解(⑩の行為を除く)
当該社債の全部についてする訴訟行為又は破産手続、再生手続、更生手続若しくは特別清算に関する手続に属する行為(⑨の行為を除く)
社債発行会社が社債の総額について期限の利益を喪失することとなる行為

(委託契約に定める範囲内で可)

(⑬,⑭については特別決議)
○=必要 ×=不要

 なお、改正法§705Ⅰ及び改正法§706Ⅰの規定以外の法律の規定によって社債管理者に付与されている権限[2]を除けば、さらに委託契約によって会社法に定められた社債管理補助者の権限以外の権限を社債管理補助者に対して付与することもできます。


[1] ただし、社債管理補助者がその権限を行使するにあたり、社債権者と社債管理補助者の利益が相反する場合において、社債権者のために裁判上又は裁判外の行為をする必要があるときは、裁判所は、社債権者集会の申立てにより、特別代理人を選任しなければなりません(改正法§714の7,§707)。
[2] 裁判所の許可を得て社債発行会社の業務及び財産の状況を調査する権限(改正法§705Ⅳ,§706Ⅳ)、債権者異議手続において異議を述べる権限(改正法§704Ⅱ本文)、社債発行会社が社債権者に対してした弁済、社債権者との間でした和解、その他社債権者に対してし、又は社債権者との間でした行為が著しく不公正である場合に、訴えをもって当該行為の取消しを請求する権限(改正法§865Ⅰ)等。

⑹ 社債管理補助者が負う義務の内容

 社債管理補助者は、社債の管理の補助に関し、社債権者に対し、㋐公平誠実義務(改正法§714の7,§704Ⅰ)及び㋑善管注意義務(改正法§714の7,§704Ⅱ)を負います。

 また、社債管理補助者は、㋒委託契約に従い、社債の管理に関する事項を社債権者に報告し、又は社債権者がこれを知ることができるようにする措置をとる義務を負います(改正法§714の4Ⅳ)。

⑺ 社債管理補助者の辞任等

ア 辞任

 社債管理補助者は、次の①~⑤のいずれかに該当する場合には、辞任することができます。

辞任ができる場合 社債管理補助者の事務の承継等
辞任社債管理補助者があらかじめ事務を承継する社債管理補助者を定めており、かつ、社債発行会社及び社債権者集会の同意を得た場合(改正法§714の7,§711Ⅰ)
辞任社債管理補助者との委託契約に事務を承継する社債管理補助者に関する定めがあり、かつ、委任契約に定めた辞任事由を充足している場合(改正法§714の7,§711Ⅱ)
やむを得ない事由がある場合であって、裁判所の許可を得たとき(改正法§714の7,§711Ⅲ) ③~⑤のいずれかに該当する場合は、社債発行会社は、事務を承継する社債管理補助者を定め、社債権者のために、社債の管理の補助を行うことを委託しなければなりません(改正法§714の7,§714Ⅰ)。
社債管理補助者の資格を有する者でなくなった場合(改正法§714の3)
社債管理補助者が死亡又は解散した場合

イ 解任

 裁判所は、社債管理補助者がその義務に違反したとき、その事務処理に不適任であるとき、その他正当な理由があるときは、社債発行会社又は社債権者集会の申立てにより、当該社債管理補助者を解任することができます(改正法§714の7前段,§713)。

⑻ 2以上の社債管理補助者がある場合

 2以上の社債管理補助者がある場合には、社債管理補助者は、各自、その権限に属する行為を行うものであって、社債管理者のように共同してその権限に属する行為をしなければならないこととはされていません(改正法§714の5Ⅰ)。

 もっとも、社債管理補助者が社債権者に生じた損害を賠償する責任を負う場合において、他の社債管理補助者も当該損害を賠償する責任を負うときは、両者の損害賠償債務は連帯債務となります(改正法§714の5Ⅱ)。

社債権者集会に関する改正

⑴ 社債権者集会決議による免除の明文化

 社債権者集会の特別決議[1]により、社債の全部について、その債務の全部又は一部の免除をすることができる旨の解釈が明文化されました(改正法§706Ⅰ①)。

⑵ 社債権者集会決議の省略等

ア 社債権者集会決議の省略(書面決議)

 機動的な意思決定を可能にする見地から、社債発行会社、社債管理者、社債管理補助者又は社債権者が社債権者集会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき議決権を行使することができる社債権者の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の社債権者集会の決議があったものとみなされます(改正法§735の2Ⅰ)。

 そして、このようにして社債権者集会の決議があったものとみなされる場合には、裁判所の認可を受けることを要しないで、当該決議の効力が生じることとされました(改正法§735の2Ⅳ)。

イ 社債権者集会の議事録の記載事項

 改正法§735の2Ⅰに基づき社債権者集会決議が省略された場合には、社債権者集会の議事録に次の事項を記載する必要があります(改正施行規則§177Ⅳ)。

  • 社債権者集会の決議があったものとみなされた事項の内容
  • 当該事項の提案をした者の氏名又は名称
  • 社債権者集会の決議があったものとみなされた日
  • 議事録の作成に係る職務を行った者の氏名又は名称

⑶ 経過措置

 改正法の施行前に社債発行会社等が社債権者集会の目的である事項について提案をした場合については、改正法§735の2の規定は適用されません(改正法附則§8Ⅳ)。

 また、施行日前に招集手続が開始された社債権者集会に係る社債権者集会参考書類及び議決権行使書面の記載については、なお従前の例によることとされています(改正省令附則§2⑭)。


[1] 社債権者集会の決議は、裁判所の認可を受けなければ、効力を生じません(改正法§734Ⅰ)。

対応必要事項(対応優先度・必要性:中)

  • 社債管理補助者制度の導入の要否の検討。社債管理補助者制度を導入する場合は、社会管理補助者となる者と委託契約を締結する。
  • 施行後に募集社債の募集事項を定める場合は、本改正で追加された事項についても定める。
  • 社債原簿の記載事項の見直し。
  • 社債権者集会の決議を行うにあたっては、書面決議の実施も採り得る手段として考慮に入れる。書面決議が行われた場合は、社債権者集会議事録に改正施行規則§177Ⅳ所定の事項を記載する。

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