【改正会社法】議案提案権の濫用的行使の制限【2021年3月1日施行】

提出可能議案数の上限の設定

 現行法上、一定の株主には、議案要領通知請求権が保障されています(現行法§305Ⅰ,§325)。

現行会社法§305

 株主は、取締役に対し、株主総会の日の8週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、株主総会の目的である事項につき当該株主が提出しようとする議案の要領を株主に通知すること(第299条第2項又は第3項の通知をする場合にあっては、その通知に記載し、又は記録すること)を請求することができる。ただし、取締役会設置会社においては、総株主の議決権の100分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権又は300個(これを下回る数を定款で定めた場合にあっては、その個数)以上の議決権を6箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主に限り、当該請求をすることができる。
2~4 (略)

 しかし、近年、一回の定時株主総会で一人の株主から100個以上もの議案が提出されるというような株主提案権の濫用的行使ともいうべき事例がみられるようになり、問題視されていました。

 そこで、本改正では、取締役会設置会社の株主が議案要領通知請求権(改正法§305Ⅰ)を行使する場合に、同一の株主総会において提出することができる議案の数の上限を10個に設定し、株主提案権の濫用的行使を防止するための対策をとりました(改正法§305Ⅳ)[1]

 なお、上述のとおり、議案要領通知請求権を行使するには、総株主の議決権の100分の1以上の議決権又は300個以上の議決権を有していることが必要となるところ(改正法§305Ⅰ)、かかる要件を充足するために、複数の株主が共同して議案要領通知請求権を行使し、10個の議案を提出した場合は、当該株主はこれ以上の議案を提出することができません。この場合、各株主が同一の議案を各々10個提出したと考えるためです[2]


[1] 株主総会の議場における議案提案権(改正法§304)に関しては、株主が株主総会の議場において提出することができる議案の数は特に制限されていません。ただし、その行使態様等によっては、議長の議事整理権や秩序維持権(改正法§315Ⅰ)によって制限されることはあり得ます。
[2] 竹林俊憲『一問一答 令和元年改正会社法』(商事法務・2020年)52頁。

提出議案数のカウント方法

⑴ 本来的な議案数のカウント方法の変更

 例えば、役員等選任議案であれば、候補者が複数存在することが通常であるところ、候補者ごとに1個の議案とカウントするため、役員等の員数が多い場合、株主が役員等の員数に応じてその選任に関する議案を提出しようとしても、上記の議案数の上限に引っ掛かり、全ての議案を提出することができない可能性があります。

 そこで、本改正では、本来的な議案数のカウント方法を採用すると、過度に株主提案権の行使を制限してしまうおそれがある場合については、例外的に複数の議案を1個の議案とみなすこととして、過度の株主提案権行使の制限とならないように配慮しています(改正法§305Ⅳ)。

役員等(=取締役、会計参与、監査役又は会計監査人)の選任に関する議案 当該議案の数にかかわらず、これを一の議案とみなす
役員等の解任に関する議案 当該議案の数にかかわらず、これを一の議案とみなす
会計監査人を再任しないことに関する議案 当該議案の数にかかわらず、これを一の議案とみなす
定款の変更に関する二以上の議案 当該二以上の議案について異なる議決がされたとすれば当該議決の内容が相互に矛盾する可能性がある場合には、これらを一の議案とみなす

⑵ 「議決の内容が相互に矛盾する可能性がある場合」の意義

 上記のとおり、定款の変更に関する2個以上の議案については、当該2個以上の議案について異なる議決がされたとすれば、当該議決の内容が相互に矛盾する可能性があるような場合には 1つの議案とみなされます(改正法§305Ⅳ④)。

 「議決の内容が相互に矛盾する可能性がある場合」とはどういう場合かというと、一部の議案について可決され、他の議案について否決される場合の組合せのうち、いずれかの組合せにおいて議決の内容が相互に矛盾することとなる場合をいうと解されています[1]


[1] 竹林俊憲『一問一答 令和元年改正会社法』(商事法務・2020年)61頁。

提出議案数が10を超える場合

 改正法は、一人の株主から10個を超える議案が提出された場合のルールについても定めています。  

 具体的には、一人の株主から提出された10個を超える議案のうち、どの議案が「十を超える数に相当することとなる数の議案」に相当するかは、株主が議案相互間の優先順位を定めている場合を除き、原則として、取締役が定めることとされています(改正法§305Ⅴ)。

経過措置

 改正法の施行日である2021年3月1日より後になされた議案要領通知請求についてのみ、改正法の規律が適用されます(改正法附則§3)。

対応必要事項(対応優先度・必要性:中)

  • 議案要領通知請求権に基づき提出された議案が10個を超える場合において、拒絶する部分の特定方法についての定めを株式取扱規程に規定しておく。

Please follow and like us:

コメント

タイトルとURLをコピーしました