【2020年民法改正】売買③―売主の担保責任【勉強ノート】

改正のポイント

 新法では,売主の担保責任に関しても契約責任説が採られることになり,特別規定がバッサリと削除され,契約解除と損害賠償請求に関しては債務不履行の一般準則に一本化されました。
 その上で,分かりやすい民法を実現する見地から,追完請求権や代金減額請求権等の規定を適宜設けるなどの改正が行われています。

     第二款 売買の効力
(権利移転の対抗要件に係る売主の義務)
第五百六十条  売主は,買主に対し,登記,登録その他の売買の目的である権利の移転についての対抗要件を備えさせる義務を負う。
(他人の権利の売買における売主の義務)
第五百六十一条   他人の権利(権利の一部が他人に属する場合におけるその権利の一部を含む。)を売買の目的としたときは,売主は,その権利を取得して買主に移転する義務を負う。
(買主の追完請求権)
第五百六十二条   引き渡された目的物が種類,品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは,買主は,売主に対し,目的物の修補,代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし,売主は,買主に不相当な負担を課するものでないときは,買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
2   前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは,買主は,同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。
(買主の代金減額請求権)
第五百六十三条   前条第一項本文に規定する場合において,買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし,その期間内に履行の追完がないときは,買主は,その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。
   前項の規定にかかわらず,次に掲げる場合には,買主は,同項の催告をすることなく,直ちに代金の減額を請求することができる。
   履行の追完が不能であるとき。
   売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
   契約の性質又は当事者の意思表示により,特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において,売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。
   前三号に掲げる場合のほか,買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。
   第一項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは,買主は,前二項の規定による代金の減額の請求をすることができない。
(買主の損害賠償請求及び解除権の行使)
第五百六十四条   前二条の規定は,第四百十五条の規定による損害賠償の請求並びに第五百四十一条及び第五百四十二条の規定による解除権の行使を妨げない。
(移転した権利が契約の内容に適合しない場合における売主の担保責任)
第五百六十五条   前三条の規定は,売主が買主に移転した権利が契約の内容に適合しないものである場合(権利の一部が他人に属する場合においてその権利の一部を移転しないときを含む。)について準用する。
(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)
第五百六十六条   売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において,買主がその不適合を知った時から一年以内にその旨を売主に通知しないときは,買主は,その不適合を理由として,履行の追完の請求,代金の減額の請求,損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし,売主が引渡しの時にその不適合を知り,又は重大な過失によって知らなかったときは,この限りでない。
(目的物の滅失等についての危険の移転)
第五百六十七条   売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この条において同じ。)を引き渡した場合において,その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し,又は損傷したときは,買主は,その滅失又は損傷を理由として,履行の追完の請求,代金の減額の請求,損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において,買主は,代金の支払を拒むことができない。
2   売主が契約の内容に適合する目的物をもって,その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず,買主がその履行を受けることを拒み,又は受けることができない場合において,その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失し,又は損傷したときも,前項と同様とする。
(競売における担保責任等)
第五百六十八条  民事執行法その他の法律の規定に基づく競売(以下この条において単に「競売」という。)における買受人は,第五百四十一条及び第五百四十二条の規定並びに第五百六十三条(第五百六十五条において準用する場合を含む。)の規定により,債務者に対し,契約の解除をし,又は代金の減額を請求することができる。
 前項の場合において,債務者が無資力であるときは,買受人は,代金の配当を受けた債権者に対し,その代金の全部又は一部の返還を請求することができる。
 前二項の場合において,債務者が物若しくは権利の不存在を知りながら申し出なかったとき,又は債権者がこれを知りながら競売を請求したときは,買受人は,これらの者に対し,損害賠償の請求をすることができる。
  前三項の規定は,競売の目的物の種類又は品質に関する不適合については,適用しない。
(債権の売主の担保責任)
第五百六十九条  債権の売主が債務者の資力を担保したときは,契約の時における資力を担保したものと推定する。
 弁済期に至らない債権の売主が債務者の将来の資力を担保したときは,弁済期における資力を担保したものと推定する。
(抵当権等がある場合の買主による費用の償還請求)
第五百七十条   買い受けた不動産について契約の内容に適合しない先取特権,質権又は抵当権が存していた場合において,買主が費用を支出してその不動産の所有権を保存したときは,買主は,売主に対し,その費用の償還を請求することができる。
第五百七十一条  削除
(担保責任を負わない旨の特約)
第五百七十二条  売主は,第五百六十二条第一項本文又は第五百六十五条に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても,知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については,その責任を免れることができない。

改正の方向性

 今回の改正で,瑕疵担保責任の法的性質についても,契約責任説が採られることになりました。

 契約責任説とは,契約の目的物が特定物であろうが,種類物であろうが,契約の内容に適合しない目的物の引渡しは引渡義務の債務不履行(不完全履行)であるという考え方です。

 その上で,特定物売買であるか種類物売買であるかを問わず,売主は種類,品質及び数量に関して契約の内容に適合した目的物を引き渡す債務を負うことを前提に,引き渡された目的物が種類,品質又は数量に関して契約の内容に適合しない場合には,買主は,①その修補や代替物の引渡し等の履行の追完請求(新法§562Ⅰ本文),②代金減額の請求(新法§563Ⅰ・Ⅱ),③新法§415に基づく損害賠償請求(新法§564)及び④新法§541,§542に基づく契約解除(新法§564)をすることができるとしました。

Blue Giant
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損害賠償請求権や解除に関する特別規定をバッサリとカットして,債務不履行の一般準則に一本化した上で,追完請求権や代金減額請求権に関する規定を特別に設けているよ。

 

「新法下の担保責任」

  追完請求権 代金減額請求権 解除権 損害賠償請求権 期間制限 競売への適否
新法の債務不履行の一般原則 全部他人の権利(561) × ×
(催告解除(541),無催告解除(542))

(415)
一般原則
(166)
担保物権実行による買主所有権喪失(567Ⅰ,Ⅲ参照) ×
新法の契約不適合責任(売買の特則)

物の種類・品質に関する契約不適合


(562)

(563)

(催告解除(564・541),無催告解除(564・542))

(564・415)
契約不適合を知ってから1年以内の不通知による失権(566) ×
(568Ⅳ)
物の数量に関する契約不適合 一般原則
(166)

(568Ⅰ,Ⅲ)
移転した権利の契約不適合(権利の一部が他人に属する場合を含む)(565)
(565・562)

(565・563)

(催告解除(565・564・541),無催告解除(565・564・542))

(565・564・415)
契約不適合の抵当権等がある場合の買主による費用の償還請求(570) 所有権保存に係る費用償還請求
(争いあり)

出典:伊藤滋夫編著「新民法(債権関係)の要件事実Ⅱ」(青林書院・2017年)443頁

他人の権利の売買

他人の権利の売買における売主の義務(新法§561)

旧法 新法
【560条】(他人の権利の売買における売主の義務)
他人の権利を売買の目的としたときは,売主は,その権利を取得して買主に移転する義務を負う。
【561条】(他人の権利の売買における売主の義務)
他人の権利(権利の一部が他人に属する場合におけるその権利の一部を含む。)を売買の目的としたときは,売主は,その権利を取得して買主に移転する義務を負う。

 売買の目的とされた権利の一部が他人に属する場合にも,売主はその権利を取得して買主に移転する義務があることが明文化されました(新法§561)

旧法§561(他人の権利の売買における売主の担保責任)の削除

旧法 新法
【561条】(他人の権利の売買における売主の担保責任)
前条の場合において,売主がその売却した権利を取得して買主に移転することができないときは,買主は,契約の解除をすることができる。この場合において,契約の時においてその権利が売主に属しないことを知っていたときは,損害賠償の請求をすることができない。
削除

 旧法では,他人の権利の売買に関し,旧法§560において,売主には他人から権利を取得して買主に移転する義務があると定めた上で,旧法§561において,「売主がその売却した権利を取得して買主に移転することができない」場合について買主は契約解除及び損害賠償請求をすることができるとして売主の担保責任を定めていました。

 そして,最判昭和41年9月8日は,「他人の権利を売買の目的とした場合において,売主がその権利を取得してこれを買主に移転する義務の履行不能を生じたときにあつて,その履行不能が売主の責に帰すべき自由(原文ママ)によるものであれば,買主は,売主の担保責任に関する民法五六一条の規定にかかわらず,なお債務不履行一般の規定(民法五四三条,四一五条)に従つて,契約を解除し損害賠償の請求をすることができる」として,旧法§561による契約解除及び損害賠償請求と債務不履行があった場合の一般的な規律による契約解除及び損害賠償請求との併存を認めていました。

 しかし,前述のとおり,今回の改正で,契約責任説の立場が採られることになりました。

 他人の権利の売主が他人から権利を取得して買主に移転しないことは契約不適合の一種にほかなりません。

 そのため,他人の権利の売主は,他人から権利を取得して買主に移転する義務を負うという規律を維持した上で(新法§561),旧法§561は削除され,債務不履行があった場合の一般的な規律による契約解除及び損害賠償請求に一本化されました

 したがって,他人の権利の売主が他人から権利を取得して買主に移転しない場合には,債務不履行があった場合の一般的な規律により,買主は,その履行を求めることができるほか,契約解除(新法§541,§542)及び損害賠償請求(新法§415)をすることができます。

 また,他人の権利の売主が他人から権利の一部を取得して買主に移転しない場合には,買主は追完請求及び代金減額請求によって売主の担保責任を問うこともできます(新法§565)

善意の売主の解除権の廃止

旧法 新法

【562条】(他人の権利の売買における善意の売主の解除権)
1項:売主が契約の時においてその売却した権利が自己に属しないことを知らなかった場合において,その権利を取得して買主に移転することができないときは,売主は,損害を賠償して,契約の解除をすることができる。

2項:前項の場合において,買主が契約の時においてその買い受けた権利が売主に属しないことを知っていたときは,売主は,買主に対し,単にその売却した権利を移転することができない旨を通知して,契約の解除をすることができる。

削除

 旧法§562が実務上ほとんど用いられていなかったこと,不動産登記等により権利関係を容易に調査できる現代において,十分な調査をしなかった者について,善意であるという一事をもって契約解除を認める必要性が乏しいことから,旧法§562は削除されました。

売主の担保責任

序説

 前述のとおり,新法では,契約責任説の立場を採用した上で,特定物売買であるか種類物売買であるかを問わず,売主は種類,品質及び数量に関して契約の内容に適合した目的物を引き渡す債務を負うことを前提に,引き渡された目的物が種類,品質又は数量に関して契約の内容に適合しない場合には,買主は,①その修補や代替物の引渡し等の履行の追完請求(新法§562Ⅰ本文),②代金減額の請求(新法§563Ⅰ・Ⅱ),③新法§415に基づく損害賠償請求(新法§564)及び④新法§541,§542に基づく契約解除(新法§564)をすることができるとしました。

 契約責任説の論理的帰結として,売主の瑕疵担保責任は債務不履行責任そのものと考え,特別な規定を設けず,全て債務不履行の一般準則(③・④)で処理することも考えられるところです。

 しかし,今回の民法改正は,国民一般に分かりやすい民法を実現することも志向していたことから,買主の売主に対する代替物又は不足分の引渡請求権及び修補請求権(①,追完請求権),並びに代金減額請求権(②)を明文化することとしました。

追完請求(新法§562)

旧法 新法
規定なし

【562条】(買主の追完請求権)
1項:引き渡された目的物が種類,品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは,買主は,売主に対し,目的物の修補,代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし,売主は,買主に不相当な負担を課するものでないときは,買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。

2項:前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは,買主は,同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。

追完請求権の新設

 売買の目的物が契約の内容に適合しない場合における買主の追完請求権(目的物の修補,代替物又は不足分の引渡し)を認める規定が新設されました(新法§562Ⅰ本文)

 旧法下では,特定物売買については売主は当該目的物を引き渡せば足り,追完請求は認められないとの見解(法定責任説)が有力に主張されていたため,追完請求を行う障害となっていました。

 しかし,新法において明文で追完請求が認められたことにより,追完請求が積極的に活用されるようになると予想されます。

履行の追完の方法

 前述のとおり,履行の追完の方法には,目的物の修補代替物の引渡し不足分の引渡しが挙げられています。

 これらの追完方法のうち,どの方法で履行の追完をすべきかを選択して請求する第一次的な決定権は買主が有しています(新法§562Ⅰ本文)

 しかし,追完をする負担を考えると売主にも一定の利害があることから,売主は,買主に不相当な負担を課するものでないのであれば,買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができることとされています(同項但書)

追完請求をすることができない場合

 新法§562Ⅱでは,契約不適合が債権者の帰責事由によるときは,買主は追完請求ができない旨規定されています。

 買主の帰責事由により契約不適合が生じた場合にまで,売主に追完義務の負担を負わせることは妥当でないため,当該規定が設けられました。

要件事実

代金減額請求(新法§563)

旧法 新法

【563条】(権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責任)
1項:売買の目的である権利の一部が他人に属することにより,売主がこれを買主に移転することができないときは,買主は,その不足する部分の割合に応じて代金の減額を請求することができる。

2項:前項の場合において,残存する部分のみであれば買主がこれを買い受けなかったときは,善意の買主は,契約の解除をすることができる。

3項:代金減額の請求又は契約の解除は,善意の買主が損害賠償の請求をすることを妨げない。

【565条】(数量の不足又は物の一部滅失の場合における売主の担保責任)
前二条の規定は,数量を指示して売買をした物に不足がある場合又は物の一部が契約の時に既に滅失していた場合において,買主がその不足又は滅失を知らなかったときについて準用する。

【563条】(買主の代金減額請求権)
1項:前条第一項本文に規定する場合において,買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし,その期間内に履行の追完がないときは,買主は,その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。

2項:前項の規定にかかわらず,次に掲げる場合には,買主は,同項の催告をすることなく,直ちに代金の減額を請求することができる。
一 履行の追完が不能であるとき。
二 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 契約の性質又は当事者の意思表示により,特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において,売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。
四 前三号に掲げる場合のほか,買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。

3項:第一項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは,買主は,前二項の規定による代金の減額の請求をすることができない。

代金減額請求を認める範囲の拡張

 旧法では,他人の権利の一部不移転,数量不足,及び一部滅失の場合(旧法§565,§563Ⅰ)にしか代金減額請求が認められていませんでしたが,新法では,目的物の品質等が契約の内容に適合しない場合一般について,代金減額請求が認められることになりました(新法§563Ⅰ,Ⅱ)

 そして,代金減額請求は契約の一部解除としての実質を有していることに鑑み,代金減額請求権の行使方法については,契約解除と同様の規律が及んでいます

 すなわち,引き渡された目的物が契約の内容に適合しない場合には,買主が売主に対して相当の期間を定めて履行の追完の催告をし,その期間内に履行の追完がないときにはじめて,買主はその不適合の程度に応じて代金減額請求をすることができるとしています(新法§563Ⅰ)

 一方,一定の場合に無催告解除が認められているのと同様に,催告をして,売主に履行の追完の機会を与えることが無意味な場合には,買主は催告をせずに代金減額請求をすることができるとの規定も設けられています(同条Ⅱ)

 売主に履行の追完の機会を与えることが無意味な場合は,無催告解除の場合と同様に,

  • ①履行の追完が不能である場合
  • ②売主が履行の追完を拒絶意思を明確に表示した場合
  • ③契約の性質又は当事者の意思表示により,特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において,売主が履行の追完をしないでその時期を経過した場合
  • ④(これらの場合のほか)買主が催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかである場合

です。

代金減額請求をすることができない場合

 新法§563Ⅲでは,契約不適合が債権者の帰責事由によるときは,買主は代金減額請求ができない旨規定されています。

 買主の帰責事由により契約不適合が生じた場合にまで,売主に代金減額の負担を負わせることは妥当でないため,当該規定が設けられました。

要件事実

債務不履行の一般準則によることの確認規定(新法§564)

旧法 新法
規定なし 【564条】(買主の損害賠償請求及び解除権の行使)
前二条の規定は,第四百十五条の規定による損害賠償の請求並びに第五百四十一条及び第五百四十二条の規定による解除権の行使を妨げない。

 前述のとおり,新法では契約責任説の立場が採られ,特定物売買と種類物売買とを区別することなく,売主は種類,品質及び数量に関して売買契約の内容に適合した目的物を引き渡す義務を負うことを前提に,引き渡された目的物が契約の内容に適合しない場合には,損害賠償請求及び解除は債務不履行の一般的な規律に基づいて行われることとされました。

 新法§564は,条文上もこのことを明らかにするものです。

移転した権利が契約の内容に適合しない場合等(新法§565)

旧法 新法
規定なし 【565条】(移転した権利が契約の内容に適合しない場合における売主の担保責任)
前三条の規定は,売主が買主に移転した権利が契約の内容に適合しないものである場合(権利の一部が他人に属する場合においてその権利の一部を移転しないときを含む。)について準用する。

 新法では,売買の目的物に契約不適合があった場合の買主の権利に関する規定(新法§562~§564)を売買により移転した権利が契約の内容に適合しない場合に準用する規定が新設されています(新法§565)

 売買の目的物に契約不適合があった場合と同様に,売主は一般に売買契約の内容に適合した権利を移転する債務を負うことを前提に,買主に移転した権利が契約の内容に適合しない場合には債務は未履行であるとの整理(契約責任説)を基本として買主の救済手段を整理するのが適切と考えられたからです。

買主の権利の期間制限(新法§566)

旧法 新法

【564条】
前条の規定(権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責任)による権利は,買主が善意であったときは事実を知った時から,悪意であったときは契約の時から,それぞれ一年以内に行使しなければならない。

【565条】(数量の不足又は物の一部滅失の場合における売主の担保責任)
前二条の規定は,数量を指示して売買をした物に不足がある場合又は物の一部が契約の時に既に滅失していた場合において,買主がその不足又は滅失を知らなかったときについて準用する。

【566条】(地上権等がある場合等における売主の担保責任)
1項:売買の目的物が地上権,永小作権,地役権,留置権又は質権の目的である場合において,買主がこれを知らず,かつ,そのために契約をした目的を達することができないときは,買主は,契約の解除をすることができる。この場合において,契約の解除をすることができないときは,損害賠償の請求のみをすることができる。

2項:前項の規定は,売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。

3項:前二項の場合において,契約の解除又は損害賠償の請求は,買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。

【570条】(売主の瑕疵担保責任)
売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは,第五百六十六条の規定を準用する。ただし,強制競売の場合は,この限りでない。

【566条】(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)
売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において,買主がその不適合を知った時から一年以内にその旨を売主に通知しないときは,買主は,その不適合を理由として,履行の追完の請求,代金の減額の請求,損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし,売主が引渡しの時にその不適合を知り,又は重大な過失によって知らなかったときは,この限りでない。

 旧法では,売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは,買主は瑕疵があるとの事実を知ってから1年以内に契約解除又は損害賠償請求をしなければならないと定めていました(旧法§570・§566Ⅲ)

 また,売買の目的である権利の一部が他人に属する場合数量を指示して売買をした物に不足があった場合物の一部が契約時に既に滅失していた場合売買の目的物に用益物権等が設定されていた場合等にも,買主は,その事実を知った時等から1年以内に契約解除等をしなければならないと定めていました(旧法§564,§565,§566Ⅲ)

旧法で権利行使期間
が制限されたもの

①権利の一部が他人に属する場合
②数量を指示して売買をした物に不足がある場合
③物の一部が契約の時に既に滅失していた場合
④売買の目的物が地上権,永小作権,地役権,留置権又は質権の目的である場合
⑤売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合
⑥その不動産について登記をした賃貸借があった場合
⑦売買の目的物に隠れた瑕疵があったとき
新法で権利行使期間
が制限されるもの
売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合

 これが,新法では,引き渡された目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合における買主の権利についてのみ期間制限を設け,引き渡された目的物が数量に関して契約の内容に適合しない場合や移転した権利が契約の内容に適合しない場合については,期間制限を設けないことにしました(新法§566本文)

目的物が種類に関して契約の内容に適合しない場合 原則として不適合を知ってから1年以内に不適合を通知しなければ,担保責任追及不可
目的物が品質に関して契約の内容に適合しない場合
目的物が数量に関して契約の内容に適合しない場合 特別の期間制限なし
(消滅時効の一般原則に服する)
目的物が権利に関して契約の内容に適合しない場合

 かかる改正の趣旨は,①目的物の引渡し後は履行が終了したとの期待が売主に生じることから,このような売主の期待を保護すること,及び②種類・品質に関する契約不適合の有無は,目的物の使用や時間経過による劣化等により比較的短時間で判断が困難となるから,短期の期間制限を設けることにより法律関係を早期に安定化する必要があることにあります。

 逆に言えば,目的物の数量や権利移転義務の契約不適合の場合は,外形的に不適合が明らかであり,無用の紛争が惹起されるおそれが乏しいため,長期間にわたって担保責任の負担を売主に負わせても,履行修了に対する売主の期待を害することにはなりません。

 そこで,この場合は,短期の期間制限はなく,消滅時効の一般原則(新法§166Ⅰ)に委ねられることになります。

 では,売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合,買主はどのようにして追完請求権等の担保責任に関する権利を保存すればよいのでしょうか。

 旧法下では,買主は,瑕疵を知ってから1年以内に,「少なくとも,売主に対し,具体的に瑕疵の内容とそれに基づく損害賠償請求をする旨を表明し,請求する損害額の算定の根拠を示すなどして,売主の担保責任を問う意思を明確に告げる必要」があり,かつ「売主の担保責任を問う意思を裁判外で明確に告げることをもって足り,裁判上の権利行使をするまでの必要はない」と解されていました(最判平成4年10月20日)

 しかし,新法§566本文では,買主は,その不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知すべしとされており,旧法下での買主の負担よりも軽減されています。

 ただし,この「通知」は,単に契約との不適合がある旨を抽象的に伝えるのでは足りません。

 少なくとも売主が不適合の内容を把握することが可能な程度に,不適合の種類・範囲を伝えることは必要です。

 「通知」の趣旨が,引き渡した物の種類や品質に関する欠陥等は時間の経過とともにそれが何によるもののかはっきりしなくなるため,不適合を知った買主から早期にその事実を売主に知らせ,売主にその存在を認識し把握する機会を与えることにあるからです。

 以上のとおり,買主は,契約不適合を知った時点から1年以内に,売主に対し,契約不適合の基礎となる事実を通知しなければ,担保責任に関する権利を行使することができなくなりますが,売主が引渡しの時に引き渡した目的物が契約の内容に適合しないことを知り,又は重大な過失によって知らなかった場合は,この限りではありません

 前述のとおり,権利行使に期間制限を設けた趣旨は,売主の履行終了に対する期待を保護することにありますが,この場合には,売主のかかる期待を保護する必要がないからです。

目的物の滅失等についての危険の移転(新法§567)

旧法 新法
規定なし

【567条】(目的物の滅失等についての危険の移転)
1項:売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この条において同じ。)を引き渡した場合において,その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し,又は損傷したときは,買主は,その滅失又は損傷を理由として,履行の追完の請求,代金の減額の請求,損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において,買主は,代金の支払を拒むことができない。

2項:売主が契約の内容に適合する目的物をもって,その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず,買主がその履行を受けることを拒み,又は受けることができない場合において,その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失し,又は損傷したときも,前項と同様とする。

新設規定の概要

 新法では,売主が買主に目的物を引き渡した場合には,それ以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によって生じた目的物の滅失又は損傷については,買主は,これを理由とする担保責任の追及をすることができない旨の規定が新設されました(新法§567Ⅰ前段)

 また,同項後段では,新法§536Ⅰ の特則として,危険の移転後においては,買主は,代金の支払を拒むことができない旨定められています。

 さらに,同条Ⅱでは,売主が契約の内容に適合したものを提供したにもかかわらず,買主が受領を拒み,又は受け取ることができない場合(受領遅滞)に,その後に当事者双方の責めに帰することができない事由により目的物が滅失・損傷したときも,同条Ⅰ前段と同様に,買主に危険が移転する旨の規定も新設されています。

改正の趣旨

1 新法§567Ⅰ前段

 目的物が売主から買主に引き渡されることにより,目的物の支配が売主から買主へと移転した場合には,それ以降に生じた目的物の滅失・損傷については,買主は担保責任を追及することができないと解するのが公平であると実務上考えられていたため,かかる立場に従い,明文化したものです。

2 新法§567Ⅰ後段

 目的物の支配が売主から買主へと移転した後の目的物の滅失・損傷である以上,買主の反対債務は存続させるのが公平です。

3 新法§567Ⅱ

 買主が受領遅滞に陥った場合についても,新法§567Ⅰ前段の場合と同様に,買主に危険を負担させるのが公平と考えられ,その旨明文化しました。

競売における担保責任(新法§568)

旧法 新法
【570条】(売主の瑕疵担保責任)
売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは,第五百六十六条の規定を準用する。ただし,強制競売の場合は,この限りでない。

【568条】(競売における担保責任等)
1項:民事執行法その他の法律の規定に基づく競売(以下この条において単に「競売」という。)における買受人は,第五百四十一条及び第五百四十二条の規定並びに第五百六十三条(第五百六十五条において準用する場合を含む。)の規定により,債務者に対し,契約の解除をし,又は代金の減額を請求することができる。

2項:前項の場合において,債務者が無資力であるときは,買受人は,代金の配当を受けた債権者に対し,その代金の全部又は一部の返還を請求することができる。

3項:前二項の場合において,債務者が物若しくは権利の不存在を知りながら申し出なかったとき,又は債権者がこれを知りながら競売を請求したときは,買受人は,これらの者に対し,損害賠償の請求をすることができる。

4項:前三項の規定は,競売の目的物の種類又は品質に関する不適合については,適用しない。

 新法§568Ⅳは,基本的には,旧法§570但書と同様の規定です。

 すなわち,競売の目的物の種類又は品質に関する不適合については担保責任の規定が適用されませんが,それ以外の不適合については契約解除,代金減額請求,損害賠償請求等をすることができます

 もっとも,前述のように,売主の担保責任に関する規定自体が見直されているため,それに伴い,旧法との相違が生じています。相違点は次の2点です。

  • 権利の瑕疵がある場合,競売においても代金減額請求が可能になりました(新法§568Ⅰ)
  • 数量に関する目的物の契約不適合や移転した権利の契約不適合がある場合,競売における担保責任についても権利行使期間の制限が撤廃されました。

 なお,旧法で「強制競売」とされていたのを新法で「民事執行その他の法律の規定に基づく競売」に改めたのは,広く競売一般に新法§568が適用されることを明らかにするためです。

買受人に追完請求権が認められていないのはどうして?

 新法§568によれば,買受人に追完請求権(新法§562参照)が認められていません。
 その理由については,強制競売その他の競売は,目的物の所有者の意思にかかわらず強制的に行われるものであることから,その競売の対象とされた目的物や権利が競売の手続の下で想定されていたものと適合しなかったとしても,その不適合を埋め合わせるための追完義務を負わせることは,相当でないと考えられたためと説明されています。

確認問題〔売買③―売主の担保責任〕

新法に基づいて回答してください!(全5問)

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