【2020年民法改正】売買④―買主による代金の支払の拒絶【勉強ノート】

権利を取得できず,又は失うおそれがある場合

旧法 新法
【576条】(権利を失うおそれがある場合の買主による代金の支払の拒絶)
売買の目的について権利を主張する者があるために買主がその買い受けた権利の全部又は一部を失うおそれがあるときは,買主は,その危険の限度に応じて,代金の全部又は一部の支払を拒むことができる。ただし,売主が相当の担保を供したときは,この限りでない。
【576条】(権利を取得することができない等のおそれがある場合の買主による代金の支払の拒絶)
売買の目的について権利を主張する者があることその他の事由により,買主がその買い受けた権利の全部若しくは一部を取得することができず,又は失うおそれがあるときは,買主は,その危険の程度に応じて,代金の全部又は一部の支払を拒むことができる。ただし,売主が相当の担保を供したときは,この限りでない。

 新法では,売買の目的について権利を主張する者があることその他の事由により,一旦取得した権利の全部又は一部を失うおそれがある場合のみならず,権利を取得することができないおそれがある場合にも,買主に代金支払拒絶権を認めています(新法§576)。

 新法で,「その他の事由により」との文言を追加したのは,用益物権を主張する第三者等が存在する場合にも代金支払拒絶ができることを明らかにするためです。

 ただし,「その他の事由」は,「売買の目的について権利を主張する者があること」と同程度に権利を失い又は権利を取得できないことを疑うにつき客観的かつ合理的な理由があることを要することとされています。

 なお,「おそれ」の有無については,権利を失い又は権利を取得できないことについて,客観的に合理的な根拠を要し,主観的な危惧感では足りないと解されています。

抵当権等の登記がある場合

旧法 新法

【577条】(抵当権等の登記がある場合の買主による代金の支払の拒絶)
1項:買い受けた不動産について抵当権の登記があるときは,買主は,抵当権消滅請求の手続が終わるまで,その代金の支払を拒むことができる。この場合において,売主は,買主に対し,遅滞なく抵当権消滅請求をすべき旨を請求することができる。

2項:前項の規定は,買い受けた不動産について先取特権又は質権の登記がある場合について準用する。

【577条】(抵当権等の登記がある場合の買主による代金の支払の拒絶)
1項:買い受けた不動産について契約の内容に適合しない抵当権の登記があるときは,買主は,抵当権消滅請求の手続が終わるまで,その代金の支払を拒むことができる。この場合において,売主は,買主に対し,遅滞なく抵当権消滅請求をすべき旨を請求することができる。

2項:前項の規定は,買い受けた不動産について先取特権又は質権の登記がある場合について準用する。

 「買い受けた不動産について『契約の内容に適合しない』抵当権の登記があるときは,買主は,抵当権消滅請求の手続が終わるまで,その代金の支払を拒むことができる」として,「契約の内容に適合しない」との文言が追加されています。

 これは,契約の趣旨に適合しない抵当権等の登記がある場合に限り,買主を保護し,新法§577が適用されることを明らかにする趣旨です。

 契約の趣旨に適合しない抵当権等の登記がある場合とは,例えば,抵当権等の存在を考慮して代金額が定められていないような場合です。

 以上の改正は,基本的には旧法下での実務の運用を明文化する改正であり,本改正が実務に与える影響は小さいといわれています。

確認問題

 特になし。

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