【想定する読者】
はじめに
令和4年に消費者契約法が改正され、改正法が【令和5年6月1日】から施行されます。
令和4年改正では、いくつかの重要な改正がなされていますが、本稿では、「いわゆるサルベージ条項を無効とする規定の新設」に焦点を絞って解説します。
消費者契約法は、事業者と消費者との間の取引を規律する契約ですので、消費者を相手にビジネスを展開する事業者様であれば、是非とも知っておくべき内容です。
本稿を参照することで、改正の概要を把握することができることはもちろん、令和5年6月1日の施行日に向けて、実務上、どのように対応すればよいかを把握することができます。
改正の概要と実務対応
上記のとおり、令和4年改正では、消費者契約法に、サルベージ条項を無効とする消費者契約法8条3項が新設されました。
【消費者契約法8条3項】
事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものを除く。)又は消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものを除く。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する消費者契約の条項であって、当該条項において事業者、その代表者又はその使用する者の重大な過失を除く過失による行為にのみ適用されることを明らかにしていないものは、無効とする。
サルベージ条項とは、債務不履行責任や不法行為責任などの事業者が消費者に対して負う責任の全部または一部を免除する条項について、どういった場合に責任が免除されるかを条項上は明らかにせず、「法律上許される限り」などの曖昧な文言を用いて、責任が免除される範囲の特定を強行法規に丸投げする条項をいいます。
例えば、次のような条項です。
こうした事業者の消費者に対する責任が免除される範囲が一般消費者にとって不明確な条項は、この度の改正により、無効とされることになりました。
法律上、事業者の過失が軽過失にとどまる場合、事業者の責任を一部免除する条項を設けることは認められているにもかかわらず、上記のような不明確な条項を定めてしまうことで、その効果すら得られなくなるので、重大問題です。
消費者のほとんどは法律に精通していないので、このようにどの範囲で事業者に責任を追及することができるか分かりにくい条項は、消費者の事業者に対する責任追及を抑制してしまうことから、消費者保護の観点から、このような改正が行われたのです。
その上で、消費者契約法8条3項は、事業者の責任の一部を免除する条項を設けるのであれば、免除されるのは、事業者に軽過失があるときだけであることを条項上明らかにするように義務づけています。
例えば、次のような感じです。
なお、事業者の過失が軽過失にとどまる場合であっても、事業者の責任を全部免除することはできないことにはご注意ください(消費者契約法8条1項1号または3号に反し、無効になります。事業者に故意または重過失がある場合は、一部であっても、免責することはできません(消費者契約法8条1項2号・4号)。消費者契約法上、免責することができる範囲については、下図ご参照。)。
したがって、次のように定めても、次のような条項は引き続き無効です。
「当社に故意または重過失がある場合を除き、当社の損害賠償責任を免除する。」
おわりに
以上、サルベージ条項を無効とする規定の新設に関する改正について解説しました。
BtoCビジネスを展開する事業者様は、自社の契約書や約款、利用規約等にサルベージ条項がないか、改正法の施行日である令和5年6月1日までに確認し、サルベージ条項があるのであれば、修正してください。
とりわけ利用規約や定型約款については、施行日前であれば、サルベージ条項は、現行法上、事業者が軽過失の場合における一部免責の範囲で有効なものとして扱われるので、消費者契約法8条3項に適合するように条項を変更したとしても、実質的に条項の内容に変化はないので、消費者の同意を不要と考えることは可能であると考えられます(民法548条の4第1項)。
しかし、施行日後に条項を変更するとなると、法律上、事業者が免責を受けることができない規定を、免責を受けることができる規定にするという意味で、消費者にとって不利な規定に変更することになるので、条項変更に消費者の同意を得なければならなくなるからです(実務上、慎重な対応として、多くの事業者が消費者の同意を得ることになると思われます。)。
このように無用の手間を増やさないようにするためにも、是非、改正対応を【令和5年6月1日】までに済ませておきましょう。
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