フリーランス新法の全体像をざっくり解説

1.はじめに

 下請法が規制を及ぼす4類型以外の取引を行うフリーランスと資本金1000万円以下の事業者と取引を行うフリーランスについては下請法のような法整備がなされておらず、法的保護が薄くなっていた。

 そのため、フリーランスと事業者との間で、業務内容に関する認識の齟齬、報酬不払いや報酬の支払遅延等、様々な取引上のトラブルがしばしば発生し、フリーランスが不利な立場に置かれることが多いにもかかわらず、十分にフリーランスの保護を図ることが難しいという現状がある。

 内閣官房によれば、2020年の時点で、フリーランス人口は約462人にも上ると推計されており[1]、近年増加傾向にあるため、こうした問題を無視できなくなった。

 そこで、フリーランス保護の観点から、フリーランス(保護)新法こと「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」が2023年4月28日に成立し、同年5月12日に公布された。

 本稿では、フリーランス新法の概要を説明する。

 なお、以下では、特に断りがない限り、「法●条」などと記載されている場合、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律●条を指す。

2.施行日

 フリーランス新法の施行日は未定である。2024年の秋頃までに施行される予定であるといわれている。

3.フリーランス新法の適用対象

(1)フリーランス新法の保護対象

 前述のとおり、フリーランス新法では、「特定受託事業者」を保護対象としている。

 そして、「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者であって、以下の①又は②のいずれかに該当するものを指す(法2条1項)。

  • ①個人であって、従業員を使用しないもの
  • ②法人であって、1人の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの

 ②はいわゆる一人会社のことである。

 委託先が特定受託事業者に該当するか否かは、例えば、次のような方法で判断することが考えられる。

  • 当該委託先に従業員の有無をヒアリングする。
  • 労働保険適用事業場検索で当該委託先が雇用保険適用事業場に該当するか否かを検索する。ただし、必ずしも網羅的ではないので、補助的な調査方法と位置付けるべきである。
  • 当該委託先が法人の場合は、法人の登記事項証明書を取得し、代表者以外の役員がいないことを確認する。

 ちなみに、従業員の有無は、週所定労働20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる者の有無によって判断されることが想定されている[2]

 以上のようにフリーランス新法の保護対象は「特定受託事業者」であって、フリーランスと特定受託事業者は必ずしもイコールではないが(例えば、従業員を雇っているフリーランスもいるだろうが、そのようなフリーランスはフリーランス新法の保護からは外れる。)、以下では分かりやすさの観点から、特定受託事業者をフリーランスと称することとする。

(2)フリーランス新法の規制対象

 フリーランス新法は「業務委託事業者」を規制対象としている。

 「業務委託事業者」とは、フリーランスに業務委託をする事業者である(法2条5項)。

 そして、フリーランス新法は「業務委託事業者」の中に「特定業務委託事業者」という類型を設け、後述のとおり、より強い規制を及ぼしている。

 「特定業務委託事業者」とは、フリーランスに業務委託をする事業者であって、以下の①又は②のいずれかに該当する者である(法2条6項)。

  • ①個人であって、従業員を使用するもの
  • ②法人であって、2人以上の役員があり、又は従業員を使用するもの

 「業務委託」とは、事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造、情報成果物の作成又は役務の提供を委託することをいい、委託とは、物品・情報成果物・役務の仕様・内容を指定してその製造や作成・提供を依頼することをいう。

4.フリーランス新法の規律内容

 フリーランス新法の規律は、次のとおり、大きくは取引の適正化に関する規律と就業環境の整備に関する規律から成る。以下、各規律の概要を説明する。

【取引の適正化】

  • 給付内容等の明示
  • 報酬の支払期日等
  • 禁止行為

【就業環境の整備】

  • 募集内容の適切な表示
  • 妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮
  • ハラスメント行為への適切対応のための措置等
  • 解除の予告・理由の開示

(1)給付内容等の明示

 業務委託事業者は、フリーランスに対して業務委託をした場合、原則として直ちに下記の事項を契約書やメール、SNS、クローズドチャット等、書面又は電磁的方法により明示しなければならない(法3条)。

  • 給付の内容
  • 報酬の額
  • 支払期日
  • その他公正取引委員会規則で定める事項

 委託元はフリーランス新法の施行日までに必要事項の記載を網羅した契約書等を整備することが必要となる。

 なお、この給付内容等の明示に関する規律は、後述の(2)~(7)の規律と異なり、特定業務委託事業者のみならず、すべての業務委託事業者が遵守する必要があるため、注意が必要である。

(2)報酬の支払期日等

 特定業務委託事業者は、フリーランスの給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内において定められた支払期日までに報酬を支払わなければならない(法4条1項、5項)。

 支払期日が定められなかったときは、給付を受領した日が支払期日と定められたものとみなされる(同条2項)。

 また、法4条1項に違反して支払期日が定められたときは給付受領日から起算して60日を経過する日が支払期日と定められたものとみなされる(同項)。

 なお、再委託の場合は、元委託の対価の支払期日から起算して30日以内のできる限り短い期間内において支払期日を定めることとされている(法4条3項)。

(3)禁止行為

 特定業務委託事業者が一定期間以上行う業務委託を行う場合、下記行為が禁じられている(法5条)。

 なお、業務委託を行う期間が具体的にどの程度の期間以上かは施行令で定められることが予定されている。

  • フリーランスの帰責事由がないのに、フリーランスの給付の受領を拒むこと
  • フリーランスの帰責事由がないのに、報酬額を減額すること
  • フリーランスの帰責事由がないのに、フリーランスに返品を行うこと
  • 通常相場と比較して著しく低い報酬の額を不当に定めること
  • 正当な理由なく自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させること
  • 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
  • フリーランスの帰責事由がないのに、給付の内容を変更させ、又はやり直させること

(4)募集情報の的確な表示

 特定業務委託事業者は、広告等により、フリーランスの募集に関する情報を提供するときは、当該情報について虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはならない(法12条1項)。

 また、特定業務委託事業者は、広告等によりフリーランスの募集に関する情報を提供するときは、正確かつ最新の内容に保たなければならない(同条2項)。

(5)妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮

 特定業務委託事業者は、一定期間以上行う業務委託(以下「継続的業務委託」という。)の相手方であるフリーランスの申出に応じて、当該フリーランスが妊娠、出産若しくは育児又は介護(以下、併せて「育児介護等」という。)と両立しつつ、当該継続的業務委託に係る業務に従事することができるよう、その者の育児介護等の状況に応じた必要な配慮をしなければならない(法13条1項)。

 また、継続的業務委託ではない業務委託の場合であっても、その相手方であるフリーランスの申出に応じて、その者の育児介護等の状況に応じた必要な配慮をするよう努めなければならない(同条2項)。

 継続的業務委託のフリーランスについては配慮が義務であるが、そうでないフリーランスについては努力義務にとどまっている。

 具体的にどのような配慮をする必要があるかについては、Q&Aの問7の回答において、次のような措置が例示されている。

  • フリーランスが妊婦検診を受診するための時間を確保できるようにしたり、就業時間を短縮したりする
  • 育児や介護等と両立可能な就業日・時間としたり、オンラインで業務を行うことができるようにしたりする

 なお、業務委託を行う期間が具体的にどの程度の期間以上かは施行令で定められることが予定されている。

(6)ハラスメント行為への適切対応のための措置等

 特定業務委託事業者は、フリーランスに対するハラスメント行為により、その就業環境を害すること等が生じないよう、その者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じなければならない(法14条1項)。

 また、特定業務委託事業者は、フリーランスが当該相談を行ったこと等を理由として、その者に対し、契約解除その他の不利益な取扱いをしてはならない(同条2項)。

 具体的にどのような措置を講じる必要があるかについては、Q&Aの問8の回答において、次のような措置が例示されている。

  • ハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、従業員に対してその方針を周知・啓発すること(対応例:社内報の配布、従業員に対する研修の実施)
  • ハラスメントを受けた者からの相談に適切に対応するために必要な体制の整備(対応例:相談担当者を定める、外部機関に相談対応を委託する)
  • ハラスメントが発生した場合の事後の迅速かつ適切な対応(対応例:事案の事実関係の把握、被害者に対する配慮措置)

(7)解除の予告・理由の開示

 特定業務受託事業者は、継続的業務委託に係る契約を解除しようとする場合(更新拒絶の場合を含む。)には、相手方であるフリーランスに対し、災害等のやむを得ない事由がある場合を除き、少なくとも30日前までにその予告をしなければならない(法16条1項)。

 また、フリーランスが、当該予告がされた日から契約満了日までの間に、解除の理由の開示を特定業務委託事業者に請求した場合には、当該特定業務委託事業者は、原則として遅滞なく解除の理由を開示しなければならない(同条2項)。

5.エンフォースメント等

 フリーランスは、公正取引委員会、中小企業庁長官又は厚生労働大臣(以下、併せて「当局」という。)に対し、違反事実を申し出、適当な措置をとるよう要求することができる(法6条、17条)。

 これに対し、当局は必要な調査を行い、内容が事実であると認めたときは、次のようなフリーランス新法に基づく措置をとる。

  • 報告徴収及び立入検査(法11条、20条)
  • 指導及び助言(法22条)
  • 勧告(法8条、18条)
  • 勧告に係る措置をとるべきことの命令及び公表(法9条、19条)

 そして、「4.フリーランス新法の規律内容」の(1)~(7)の規律への違反に対し直接罰則を科す規定はないが、命令違反及び検査拒否等については、違反者に50万円以下の罰金が科されることとなり(法24条)、法人に対する両罰規定も設けられている(法25条)。

6.おわりに

 以上、フリーランス新法の概要を説明してきた。

 フリーランス新法の規律は、独占禁止法や下請法、労働法等の規律と類似するものが多く、フリーランス新法の規定の解釈はこれらの法令の解釈が参考になるだろう。

 これから施行規則の制定やフリーランス新法に関するガイドラインの公表等も予定されており、更なる情報の充実が期待されるため、本ウェブサイトでフリーランス新法に関する情報発信を継続したり、具体的な実務対応を紹介していく予定である。

 ちなみに、第二東京弁護士会が関係省庁と連携して、フリーランスが委託元とのトラブルについて弁護士に無料相談できる「フリーランス・トラブル110番」を設置している。匿名での相談も受け付けている。委託元との間でトラブルを抱えているフリーランスは利用してみるとよいだろう。

 また、当職においても、フリーランス新法に関するご相談をお受けしておりますので、是非お気軽に下記問合せフォームからご相談いただければと思います。

参考文献


[1] 内閣官房「日本経済2021-2022」

[2]内閣官房新しい資本主義実現本部事務局ほか「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)説明資料」

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