【契約実務】〔売買基本契約〕損害賠償責任条項の修正

はじめに

 本稿では,次のサンプル条項を例に,債務不履行に基づく損害賠償責任に関する条項の修正方法を検討します。

第13条(損害賠償責任
 当事者は,相手方が本契約又は個別契約に違反したことにより損害(合理的な範囲の弁護士費用を含む。)を被った場合は,当該損害の賠償を相手方に請求することができる。

 なお,サンプル条項が収録されている売買基本契約書のひな型は以下のページです。

修正する際に着目すべき観点

 まず,損害賠償責任条項を修正するにあたって着目すべき観点を挙げてみたいと思います。

  • 損害賠償責任が生ずる要件
  • 損害賠償責任を負う損害の範囲
  • 損害賠償責任を負う損害の金額
  • 遅延損害金に関する定めの有無

 以下,これらの観点について具体的に説明していきます。

損害賠償責任が生ずる要件

 債務不履行に基づく損害賠償請求の実体法上の要件は,①債権の発生原因(債務の成立),②債務の不履行,③損害の発生,④②の債務不履行と損害との間の因果関係,⑤②の債務不履行につき,債務者に帰責事由があることです(民法§415)

 このうち,⑤債務不履行につき,債務者に帰責事由があることとは,伝統的に債務者の故意・有過失を意味すると考えられてきました。

 この立場から,万一債務不履行となった場合,多額の損害賠償金が発生するリスクを抱えている当事者は,債務不履行につき,債務者に故意・重過失があった場合にのみ,損害賠償責任を負う旨修正することが考えられます。

第13条(損害賠償責任
 当事者は,相手方が本契約又は個別契約に違反したことにより損害(合理的な範囲の弁護士費用を含む。)を被った場合は,当該損害の賠償を相手方に請求することができる。ただし,当該違反につき,相手方に故意及び重過失がない場合は,この限りでない。

 さらに,債務者の故意・重過失の主張立証責任は,デフォルトでは債務者にありますが,債権者に転換するような規定にすることも考えられます。

第13条(損害賠償責任
 当事者は,相手方が本契約又は個別契約に違反したことにより損害(合理的な範囲の弁護士費用を含む。)を被った場合は,当該違反につき,相手方に故意・重過失があるときは,当該損害の賠償を相手方に請求することができる。

損害賠償責任を負う損害の範囲

 損害賠償責任を負う損害の範囲は,デフォルトでは,「通常生ずべき損害」(通常損害)と「特別の事情によって生じた損害であって」,「当事者がその事情を予見すべきであった」もの(特別損害)が含まれています(民法§416)

 そこで,次のような修正を加えることが考えられます。

  • 損害の範囲を通常損害に限定する。
  • 発生が想定される損害を具体的に列挙する。

第13条(損害賠償責任
 当事者は,相手方が本契約又は個別契約に違反したことにより損害(特別損害を含まない。)を被った場合は,当該損害の賠償を相手方に請求することができる。

 なお,特別損害は,契約ごとの個別具体的な事情に基づき,「予見すべきであった」か否かという規範的判断を通して認定されることになるため,契約書の前文,目的条項,損害賠償責任条項等で,特別損害を客観的に予見できる内容を具体的に定めておくことで,特別損害の認定で有利に判断される可能性が高まります

 したがって,相手方が契約違反をすることで生じる(通常損害には当たらない)重大な損害については,契約書上で明示しておくとよいでしょう。

損害賠償請責任を負う損害の金額

 万一債務不履行となった場合,多額の損害賠償金が発生するリスクを抱えている当事者は,例えば,売買契約であれば,賠償金額について注文合計金額を上限とする旨の修正を加えることが考えられます。

第13条(損害賠償責任
 当事者は,相手方が本契約又は個別契約に違反したことにより損害を被った場合は,当該損害の賠償を相手方に請求することができる。ただし,損害賠償の総額は,各個別契約に定める注文合計金額を限度とする。

 もっとも,損害賠償義務者の違反の態様が悪質な場合にまで,このような上限を認めるのは妥当でないと考えるのであれば,次のような適用除外のカウンター案を出すことが考えられます。

第13条(損害賠償責任
1.当事者は,相手方が本契約又は個別契約に違反したことにより損害を被った場合は,当該損害の賠償を相手方に請求することができる。ただし,損害賠償の総額は,各個別契約に定める注文合計金額を限度とする。
2.当該違反につき,相手方に故意又は重過失がある場合は,前項但書の規定を適用しない。

遅延損害金に関する定めの有無

 遅延損害金の利率は,デフォルトでは,年3%に設定されています(民法§404。ただし,3年ごとに市中金利に照らし見直されます。)

 そこで,相手方がその債務の履行を遅滞するおそれがある場合には,年3%程度では大して履行の強制力が働かないので,履行を促すために,法定利率よりも高い利率を定めた遅延損害金に関する定め違約罰に関する定め等を設けることが考えられます。

第13条(損害賠償責任
1.当事者は,相手方が本契約又は個別契約に違反したことにより損害(合理的な範囲の弁護士費用を含む。)を被った場合は,当該損害の賠償を相手方に請求することができる。
2.本契約又は個別契約に係る債務の履行を遅滞した当事者は,履行すべき日の翌日から当該債務の履行がすべて完了するまで年14.6%の割合による遅延損害金を相手方に支払う。

Q.遅延損害金の利率を年14.6%に設定している契約書をよく見かけるけど,なんで年14.6%なん?

A.遅延損害金の利率を年14.6%に設定しているのには,次の4つの理由があると言われています(滝琢磨=菅野邑斗「改正民法対応 はじめてでもわかる 売買契約書」(第一法規株式会社・2019年)18頁)。
① 過去の慣習や国税通則法§60等の各種法令で遅延損害金の利率が年14.6%に設定されていたから。
② 年14.6%は,365で割り切ることができるため,日割で支払金額を算定するのに便利だから(0.04%/日になります)。
③ 約定利率であれば,年14.6%より高額な利率を定めることができるが,あまり高額になると,公序良俗違反で無効になるから。
④ 遅延損害金を負担する者が「消費者」(消費者契約法§2Ⅰ)の場合,同法§9②により,年14.6%を超える部分について無効となるから。

● 参考文献
滝琢磨=菅野邑斗「改正民法対応 はじめてでもわかる 売買契約書」(第一法規株式会社・2019年)
滝琢磨「契約類型別 債権法改正に伴う契約書レビューの実務」(商事法務・2019年)
滝川宜信「取引基本契約書の作成と審査の実務〔第6版〕」(民事法研究会・2019年)

Please follow and like us:

コメント

タイトルとURLをコピーしました