本稿では,次のサンプル条項を例に,譲渡制限に関する条項の修正方法を検討します。
第14条(譲渡制限)
当事者は,あらかじめ相手方の書面による承諾を得ない限り,本契約又は個別契約に基づく契約上の地位並びに権利及び義務の全部又は一部を第三者に譲渡し若しくは引き受けさせ,又は担保に供してはならない。
譲渡制限条項を設ける理由
譲渡制限条項は,様々な契約類型で設けられる一般条項ですが,なぜ譲渡制限条項を設ける必要があるのでしょうか。
主に,次の4つの理由が挙げられています(筒井健夫=松村秀樹「一問一答 民法(債権関係)改正」(商事法務・2018年)161頁)。
2020年4月1日施行改正民法の反映
譲渡制限条項は,主に,①契約上の地位及び②権利を第三者に譲渡すること,③債務を第三者に引き受けさせること,④契約上の権利等に担保を設定することを原則として禁止するものです。
2020年4月1日に施行された改正民法では,債権譲渡に関する規定の内容が実質的に改正されたため,その改正を踏まえ,譲渡制限条項を修正をすることが考えられます。
そこで,まず少しだけ債権譲渡に関する改正について簡潔に説明させてください(もっと詳しい説明は本稿末尾に掲載しているページをご覧ください)。
旧民法では,譲渡禁止特約に違反する債権譲渡は原則として無効とされていましたが(旧民法§466Ⅱ),2020年4月1日に施行された改正民法では,譲渡制限特約が付された債権の譲渡も常に有効とされました(新民法§466Ⅱ)。
その代わり,債権の譲受人が,譲渡制限特約の存在を知っていたり,知らないことに重過失がある場合には,債務者は,譲受人からの当該債権の履行請求を拒絶したり,譲渡人に対する弁済等の債務消滅事由を譲受人に対抗できることとされました(新民法§466Ⅲ)。
さらに,債務者は,譲受人が悪意・重過失か分からなくても,供託を行うことで履行を完了させることができます(新法§466の2)。
債務者の立場から見て,債務者が,譲渡人に弁済したけど,実は譲受人に弁済しなければならなかったみたいなこと(二重払いの危険)にならないように一応配慮はされているようですが,本当にこれでいいのでしょうか?
次のように思いませんか?
いくら悪意・重過失の譲受人に対して履行拒絶できるといっても,いざ譲受人から履行請求されたら,譲受人が譲渡制限特約の存在を知ってるか知らないかなんて知ったこっちゃないし,本当に履行を拒絶していいのか分からなくなるんじゃないか?
履行拒絶していいか分からない場合,供託することになるけど,供託をするのもタダじゃないし,手間だってかかる!
㋐できれば事前の承諾なしに債権譲渡をさせたくないし,㋑せめて誰に弁済をしたらいいのか分からなくなるということが起きないようにしておきたい。
このような債務者のニーズに応えるべく,次のような修正方法が提唱されています(滝琢磨「契約類型別 債権法改正に伴う契約書レビューの実務」(商事法務・2019年)53頁)。
1⃣は㋑のニーズに応えるもの,2⃣は㋐のニーズに応えるものです。
なお,2⃣について,新民法では債務者の弁済者固定の利益が保護され,譲渡制限特約違反の債権譲渡が債務者に及ぼす不利益は,通常,大きくないと考えられるため,過度に強い制裁的措置を規定してしまうと,権利濫用等であると解される可能性があるとも指摘されており,注意が必要です。
以上,1⃣と2⃣を踏まえ,次のような条項に修正することが考えられます(下線を引いている箇所が修正箇所です)。
第14条(譲渡制限)
1.当事者は,あらかじめ相手方の書面による承諾を得ない限り,本契約又は個別契約に基づく契約上の地位並びに権利及び義務の全部又は一部(以下,「譲渡等目的物」という。)を第三者に譲渡し若しくは引き受けさせ,又は担保に供してはならない。ただし,本契約又は個別契約に基づく権利については,あらかじめ当該第三者に対して本項に定める譲渡制限特約の存在及び内容を書面により通知し,かつ,その書面の原本証明付写しを相手方に交付した場合は,この限りでない。
2.当事者(以下,「違反当事者」という。)が前項に違反した場合は,相手方は,直ちに本契約及び個別契約を解除することができる。相手方は,当該解除に代えて,又は当該解除とともに,違反当事者に対し,譲渡等目的物の価額と同額の違約金の支払を請求することもできる。
おわりに
上述のとおり,譲渡禁止条項の存在につき悪意・重過失の第三者に対する履行拒絶や譲渡禁止条項がある場合に供託等ができることから,新民法下においても,譲渡禁止条項の設置意義は健在であり,契約書には,引き続き譲渡禁止条項を設けておくべきです。
また,債権者の債権譲渡による資金調達の需要に応えるため,譲受人の主観を問わず,制限譲渡特約が付された債権の譲渡は有効とされたことより,今後ますます譲渡制限特約付債権が譲渡される機会が増えると予想されます。
したがって,債務者にとって,譲渡制限条項の重要性は旧法下のときよりも高まったといえるでしょう。
債務者としては,いざ債権が譲渡されてしまった場合に不利益を被らないために,譲渡制限条項について十分な検討を行っておく必要があります。
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