【改正会社法】取締役の個人別の報酬等の決定に関する方針の起案要領【2021年3月1日施行】

取締役個人別報酬等の
決定方針の起案要領

はじめに

 本稿では、有価証券報告書やパブリック・コメント等を手掛かりとして、取締役の個人別の報酬等の決定に関する方針(以下「本決定方針」)について、その決定事項ごとにどのような事柄を定めればよいかを整理します。

 なお、決定事項によっては、他の決定事項と定める事柄の内容が重複する場合もあり得ますが、その場合でも、決定事項ごとに同じ事柄を重ねて定める必要はなく、特定の一箇所で当該事柄について定めれば足ります。

有価証券報告書との比較

 本決定方針における決定事項には、有価証券報告書の中でも記載されている事項があるため、有価証券報告書を参考にすることが考えられます。したがって、本決定方針を起案するにあたっては、自社の有価証券報告書や自社と状況が似ている会社の有価証券報告書が参考になります。

【有価証券報告書の開示事項との比較】
  本決定方針 有価証券報告書
報酬等全般 ・方針の内容及び決定方法
・役職ごとの方針を定めている場合は、当該方針
・方針を定めていないときは、その旨
・改正法§361Ⅶ又は改正法§409Ⅰの方針を定めている場合には、改正施行規則§121⑥イ~ハに掲げる事項
固定報酬等 ・固定報酬等の額又はその算定方法の決定に関する方針
業績連動報酬等 ・業績連動報酬等に係る業績指標の内容の決定に関する方針
・業績連動報酬等の額又は数の算定方法の決定に関する方針
・業績連動報酬に係る指標
・当該指標を選択した理由
・業績連動報酬の額の決定方法
・業績連動報酬に係る指標の目標及び実績
非金銭報酬等 ・非金銭報酬等の内容の決定に関する方針
・非金銭報酬等の額若しくは数又はその算定方法の決定に関する方針
・非金銭報酬の内容
種類ごとの割合 固定報酬等の額、業績連動報酬等の額又は非金銭報酬等の額の取締役の個人別の報酬等の額に対する割合の決定に関する方針 ・業績連動報酬と業績連動報酬以外の報酬等の支給割合の決定方針
交付時期等 取締役に対し報酬等を与える時期又は条件の決定に関する方針
決定の委任 【本決定方針の決定を第三者に委任した】
・受任者の氏名又は当該株式会社における地位及び担当
・受任者に委任する権限の内容
・受任者により当該権限が適切に行使されるようにするための措置を講ずることとするときは、その内容
・報酬等の額等の決定権限を有する者の氏名又は名称
・権限の内容及び裁量の範囲(代表取締役への再一任を含む)
【本決定方針の決定を第三者に委任した】
・取締役会の決議による個人別の報酬等の決定の委任に関して、当該委任を受けた者が個人別の報酬等の内容を決定したときは、その旨
・委任を受けた者の氏名及び当該内容を決定した日における地位及び担当
・委任された権限の内容
・権限を委任した理由
・権限が適切に行使されるようにするための措置の内容
その他決定方法 ・その他、取締役の個人別の報酬等の内容についての決定の方法 ・報酬等の額等の決定に関与する委員会等の手続の概要
・報酬等の額の決定過程における取締役会及び委員会等の活動内容
その他重要事項 その他、本決定方針の決定に関する重要な事項
その他有価証券報告書のみ記載があるもの ・取締役(監査等委員及び社外取締役を除く)、監査等委員(社外取締役を除く)、監査役(社外監査役を除く)、執行役及び社外役員ごとに支給人数と報酬等の総額
・報酬等の種類別(固定報酬、業績連動報酬及び退職慰労金等)の区分開示(業績連動報酬に非金銭報酬等が含まれる場合には非金銭報酬等とそれ以外の報酬との区分を含む)
・株主総会における報酬決議の年月日
・当該決議の内容(当該決議が2以上の役員についての定めである場合には、役員の員数を含む)
・連結報酬等の額が1億円以上となる役員について個別開示が必要

パブリック・コメント等を踏まえた起案要領

 以下、パブリック・コメント等、信頼性・権威性のある文献等に基づき、本決定方針の起案要領を説明します。

 なお、本決定方針に関する具体的な記載例としては、東京株式懇話会「会社法改正の概要と株式実務への影響」(2020年12月4日)32頁以下の記載例等があります。

固定報酬等(改正施行規則§98の5①)

◆ 固定報酬等の額又はその算定方法の決定に関する方針

  • あくまで固定報酬等の額やその算定方法に関する決定方針を定めることが求められているのであり、額や算定方法の具体的な内容を定めることは特に求められていない。
  • 固定報酬等を取締役に付与していない場合は、定める必要はない。

業績連動報酬等(改正施行規則§98の5②)

◆ 業績連動報酬等に係る業績指標の内容の決定に関する方針

  • 業績指標の内容の決定に関する方針として、必ずしも個別の業績指標の詳細を定めることが求められるものではない[1]
  • 業績連動報酬等を取締役に付与していない場合は、改正施行規則§98の5②所定の事項を定める必要はない。

業績連動報酬等の額又は数の算定方法の決定に関する方針

  • あくまで業績連動報酬等の額や数の算定方法に関する決定方針を定めることが求められているのであり、額や数の算定方法の具体的な内容を定めることは特に求められていない。

非金銭報酬等(改正施行規則§98の5③)

非金銭報酬等の内容の決定に関する方針

  • 非金銭報酬の典型例としては株式報酬が挙げられる。そして、株式報酬にも、Restricted Stock(「RS」)、Restricted Stock Unit(「RSU」)、Performance Share「PS」、Performance Share Unit(「PSU」)、Stock Option(「SO」)等、多様な類型が存在する。
  • 非金銭報酬等を取締役に付与していない場合は、改正施行規則§98の5③所定の事項を定める必要はない。

非金銭報酬等の額若しくは数又はその算定方法の決定に関する方針

  • あくまで非金銭報酬等の額や数、その算定方法に関する決定方針を定めることが求められているのであり、額や数、算定方法の具体的な内容を定めることは特に求められていない。
  • 取締役に付与される非金銭報酬等の数が業績指標を基礎として算定されるような場合には、業績連動報酬等にも該当するので、その場合には、改正施行規則§98の5③所定の事項だけでなく、業績連動報酬等に関する同条②所定の事項も定める必要がある。このような非金銭報酬等と業績連動報酬等のいずれにも該当するものとして、例えば、PSやPSU等が挙げられる。

種類ごとの割合(改正施行規則§98の5④)

固定報酬等の額、業績連動報酬等の額又は非金銭報酬等の額の取締役の個人別の報酬等の額に対する割合の決定に関する方針

  • 例えば、「固定報酬:業績連動報酬:非金銭報酬=5:3:2」というような具体的な割合を定めることを常に求めるものではなく、具体的な割合を定めるかどうかは、本決定方針を定める取締役会において判断されることとなる[1]。
  • 各種類の報酬等の比率が一定の範囲内となるようにすることを改正施行規則§98の5④の方針として定めることも考えられる[2]。
  • 取締役に対して業績連動報酬等及び非金銭報酬等を付与しないこととする場合には、「取締役の個人別の報酬等の額に対する割合の決定に関する方針」を定めなくてよいというわけではなく、固定報酬等の額が取締役の個人別の報酬等の額の全部を占めることとなるから、その旨を定めることが考えられる[3]。

[1] 省令パブコメ結果第3の1(5)⑱。
[2] 渡辺諭ほか「会社法施行規則等の一部を改正する省令の解説〔Ⅱ〕―令和二年法務省令第五二号―」旬刊商事法務2251号122頁。
[3] 省令パブコメ結果第3の1(5)⑲。

交付時期等(改正施行規則§98の5⑤)

取締役に対し報酬等を与える時期又は条件の決定に関する方針

  • 取締役の報酬等として金銭を付与する場合には、例えば、在任中に定期的に支払うか、退職慰労金等として退任後に支払うかなどについての方針を定めることが考えられる[1]。
  • 株式を報酬等として交付する場合には、それを事前交付型とするか事後交付型とするかを定めることが考えられる[2]。
  • もっとも、改正施行規則§98の5⑤の方針に相当する内容が同条①~③に掲げる方針に含まれるものとして定められている場合には、同条⑤の方針として重ねて定める必要はない[3]。

[1] 省令パブコメ結果第3の1(5)⑳。
[2] 省令パブコメ結果第3の1(5)⑳。
[3] 省令パブコメ結果第3の1(5)⑳。

決定の委任(改正施行規則§98の5⑥)

【取締役の個人別の報酬等の内容についての決定を第三者に委任する場合】

本決定方針の決定について委任を受ける第三者(以下「受任者」)の氏名又は当該株式会社における地位及び担当

  • 「委任を受ける第三者」としては、例えば、取締役の個人別の報酬等の内容の決定について再一任を受けた代表取締役等が挙げられる。
  • また、「委任を受ける第三者」は、複数人であってもよく、例えば、任意に設置された報酬諮問委員会等も含まれる[1]。
  • そして、取締役を構成員とする任意の委員会を組織し、当該委員会が取締役の個人別の報酬等の内容の全部又は一部を決定する場合には、当該委員会の構成員である各取締役が受任者に該当するものとして、各取締役の「氏名又は当該株式会社における地位及び担当」を定めることとなる[2]。なお、任意の報酬委員会等が、取締役の個人別の報酬等の内容についての決定権限を有さず、諮問委員会に過ぎない場合は、「委任を受ける第三者」に該当しない。

◆ 受任者に委任する権限の内容

 特にコメントなし。

◆ 受任者により当該権限が適切に行使されるようにするための措置を講ずることとするときは、その内容

  • 「権限が適切に行使されるようにするための措置」としては、例えば、取締役の個人別の報酬等の内容についての決定の全部又は一部を代表取締役等に委任する場合において、任意の報酬諮問委員会等を設置し、委任を受けた代表取締役等が当該報酬諮問委員会等の見解を踏まえて当該決定をすることとする場合が挙げられる[3]。
  • そして、「権限が適切に行使されるようにするための措置の内容」としては、例えば、任意の委員会に委任する場合の委員会構成や決議プロセスの透明性の工夫、取締役社長に一任した場合の取締役社長による決定に対する任意の委員会による事前及び事後のチェックプロセス等を定めることが考えられる[4]。
  • もっとも、改正施行規則§98の5⑥ハは、受任者の権限が適切に行使されるようにするための措置を講ずることを義務付けるものではなく、そのような措置を講ずるかどうかは各社の判断に委ねている[5]。

[1] 省令パブコメ結果第3の1(5)㉒。
[2] 省令パブコメ結果第3の1(5)㉓。
[3] 省令パブコメ結果第3の1(5)㉕。
[4] 省令パブコメ結果第3の1(5)㉗、渡辺諭ほか「会社法施行規則等の一部を改正する省令の解説〔Ⅱ〕―令和二年法務省令第五二号―」旬刊商事法務2251号123頁。
[5] 省令パブコメ結果第3の1(5)㉔。

その他決定方法(改正施行規則§98の5⑦)

◆ その他、取締役の個人別の報酬等の内容についての決定の方法

  • 取締役の個人別の報酬等の内容の決定を第三者に委任せず、取締役会でこれを決定しているが、その決定過程で、例えば、報酬諮問委員会等に諮ったり、外部の専門家の意見を参考にしている場合が挙げられる。

その他重要事項(改正施行規則§98の5⑧)

◆ その他、本決定方針の決定に関する重要な事項

  • 例えば、一定の事由が生じた場合に返還させることとする場合におけるその事由の決定に関する方針(クローバック)等が挙げられる[1]。
  • また、取締役の個人別の報酬等の内容の決定の背景となる基本的な考え方や理念等を定める場合には、それらの内容を「重要な事項」に含めることが考えられる[2]。

[1] 省令パブコメ結果第3の1(5)㉘。
[2] 渡辺諭ほか「会社法施行規則等の一部を改正する省令の解説〔Ⅱ〕―令和二年法務省令第五二号―」旬刊商事法務2251号123頁。

Information

 本決定方針の概要解説については、以下のページをご覧ください。

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