【改正会社法】成年被後見人等の取締役等への就任等【2021年3月1日施行】

改正の骨子

  • 現行法§331Ⅰ②が削除され、成年被後見人及び被保佐人も、取締役等に就任することができるようになりました。
  • 成年被後見人が取締役等に就任するにあたっては、成年後見人が、成年被後見人の同意を得た上で(成年被後見人に後見監督人がある場合は、後見監督人の同意も必要)、成年被後見人に代わって就任の承諾を行うことが要求されています(改正法§331の2Ⅰ)。
  • 被保佐人が取締役等に就任するにあたっては、その保佐人の同意を得ることが要求されています(改正法§331の2Ⅱ)。
  • 成年被後見人等による取締役等の資格に基づく行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができないこととされています(改正法§331の2Ⅳ等)。

欠格条項の削除

 現行法においては、成年被後見人及び被保佐人(以下、併せて「成年被後見人等」)は、株式会社の取締役、監査役、執行役、清算人、設立時取締役及び設立時監査役(以下、併せて「取締役等」)になることができないこととされていますが(現行法§39Ⅳ,§331Ⅰ②,§335Ⅰ,§402Ⅳ,§478Ⅷ前段)、制限行為能力者のノーマライゼーションを志向する昨今の潮流を受け、本改正では、こうした欠格条項が削除され、成年被後見人等も取締役等に就任することができるようになりました[1]


[1] 外国の法令上成年被後見人又は被保佐人と扱われている者も取締役等になることができることとされています(現行法§331Ⅰ②削除)。ただし、これらの者がいかなる手続をもって取締役等に就任することができるかについては解釈に委ねられています(竹林俊憲『一問一答 令和元年改正会社法』(商事法務・2020年)259頁)。

取締役等への就任のための手続

⑴ 成年被後見人が取締役等に就任する場合

 成年被後見人は、成年後見人の同意なく行った行為を取り消すことができますが(民法§9本文)、取締役等への就任といった高度の法的安定性が要求される行為の効力が当該取消しによって容易に覆滅されるのは相当ではありません。

 そこで、本改正では、成年被後見人が取締役等へ就任するにあたっては、その効力が覆滅されることのないよう、手堅い手続を踏むことが要求されています。具体的には、成年後見人が、成年被後見人の同意を得た上で(成年被後見人に後見監督人がある場合は、後見監督人の同意も必要)、成年被後見人に代わって就任の承諾を行うことが要求されています(改正法§331の2Ⅰ)。

 成年被後見人の同意を得ることなく、成年後見人が成年被後見人による取締役等への就任を承諾しても、当該承諾は初めから無効なものとして取り扱われます[1]

⑵ 被保佐人が取締役等に就任する場合

 被保佐人が取締役等に就任する場合についても、法的安定性確保の見地から(民法§13Ⅳ参照)、被保佐人が取締役等に就任するには、その保佐人の同意を得なければならないこととされています(改正法§331の2Ⅱ)。

 保佐人の同意を得ることなく、被保佐人が取締役等に就任することに承諾しても、当該承諾は初めから無効なものとして取り扱われると解されます。

 なお、成年被後見人が取締役等に就任する場合は、同意の主体は成年被後見人で、承諾の主体は成年後見人であったのに対し、被保佐人が取締役等に就任する場合には、同意の主体は保佐人で、承諾の主体は被保佐人となっており、同意や承諾を行う者の立場が入れ替わっていることに注意してください。

  同意 承諾
成年被後見人が取締役等に就任する場合 成年後見人 成年後見人
被保佐人が取締役等に就任する場合 保佐人 保佐人

[1] 竹林俊憲『一問一答 令和元年改正会社法』(商事法務・2020年)251頁。

取締役等の就任による変更の登記

 取締役等の就任があった場合、その日から2週間以内に法務局に変更登記の申請書を提出する必要があります(改正法§915Ⅰ,商業登記法§17Ⅰ)。そして、当該申請書には、就任を承諾したことを証する書面を添付する必要があります(同法§54Ⅰ)。成年被後見人等が取締役等に就任した場合には、次の書面を添付することが要求される見込みです[1]

成年被後見人が取締役等に就任した場合 ▪ 成年後見人作成の就任承諾書
▪ 成年後見登記事項証明書
▪ 成年被後見人の同意書(後見監督人がある場合にあっては、成年被後見人及び後見監督人の同意書)
被保佐人が取締役等に就任した場合 ▪ 被保佐人作成の就任承諾書
▪ 保佐人の同意書
[保佐人が民法§876の4Ⅰの代理権を付与する旨の審判に基づき被保佐人に代わって就任の承諾をした場合]
▪ 保佐人作成の就任承諾書
▪ 代理権を付与する旨の審判に係る審判書
▪ 被保佐人の同意書

[1] 竹林俊憲『一問一答 令和元年改正会社法』(商事法務・2020年)252頁。

成年被後見人等による取締役等の資格に基づく行為の取消制限

 法的安定性や取引の安全の保護の見地から、成年被後見人等による取締役等の資格に基づく行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができないことを明らかにする規定も新設されています(改正法§39Ⅴ,§331の2Ⅳ,§335Ⅰ,§402Ⅳ,§478Ⅷ本文)。

 ちなみに、「取締役等の資格に基づく行為」とは、取締役と株式会社との関係に基づく行為をいうと解されています。取締役会における議決権の行使や、株式会社の業務の執行等が例として挙げられています[1]


[1] 竹林俊憲『一問一答 令和元年改正会社法』(商事法務・2020年)261頁。

対応必要事項(対応優先度・必要性:中)

  • 成年被後見人を取締役等に就任させる場合は、成年後見人に、成年被後見人から同意書を取得してもらった上で(成年被後見人に後見監督人がある場合は、後見監督人の同意書も必要)、成年被後見人に代わって就任承諾書を作成してもらう。
  • 被保佐人を取締役等に就任させる場合は、被保佐人の就任承諾書のみならず、保佐人の同意書も取得する。

Please follow and like us:

コメント

タイトルとURLをコピーしました