【2021年3月1日施行改正会社法】取締役の報酬等

改正の骨子

  • 上場会社等の取締役会は、定款又は株主総会決議により取締役の個人別の報酬等の内容が具体的に定められていない場合には、その内容についての決定に関する方針を定めなければならないこととなりました(改正法§361Ⅶ)。
  • 取締役の報酬等に関する事項について、公開会社における事業報告による情報開示に関する規定の充実が図られました(改正施行規則§121,122)。
  • 株主総会において、不確定額報酬や非金銭報酬に関する議案のみならず、確定額報酬に関する議案の内容を定め、又は改定する場合にも、その報酬等議案を「相当とする理由」の説明を求めることとされました(改正法§361Ⅳ)。
  • 取締役の報酬等として当該株式会社の株式又は新株予約権を付与しようとする場合には、定款又は株主総会の決議により、当該株式又は新株予約権の数の上限等を定めなければならないこととなりました(同条Ⅰ③・④)。
  • 上場会社が取締役の報酬等として株式の発行等をする場合には、募集株式と引換えにする金銭の払込み等を要しないこととされました(改正法§202の2Ⅰ・Ⅱ等)。

取締役の個人別の報酬等の内容に関する決定方針の決定義務付け

⑴ 概要

 現行法では、取締役の報酬等は、定款又は株主総会の決議により概括的に定めれば足り、取締役の個人別の報酬等の内容についてまで具体的に定める必要はなく、当該内容に関する決定を取締役会に委任することができると解されているため、取締役の報酬等の内容の決定手続等の透明性は確保されていません。

 しかし、取締役の報酬等には、取締役に対して職務を適切に執行するインセンティブを付与する機能があることに鑑み、その内容の決定手続等の適正性を確保する仕組みを整備する必要があります。

 そこで、改正法では、上場会社等の取締役会は、定款又は株主総会決議により取締役[1]の個人別の報酬等の内容が具体的に定められていない場合には、その内容についての決定に関する方針(以下「本決定方針」といいます。)を定めなければならないこととしました(改正法§361Ⅶ)。

 そして、詳細は後述しますが、本決定方針は、株主総会における報酬等議案に関する説明事業報告の中で開示されることになります。


[1] 監査等委員である取締役は対象外となります。

⑵ 本決定方針の決定義務を負う会社

 本決定方針の決定義務を負うのは、次の2種類の会社です。

  1. 監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって、金商法§24Ⅰによりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないもの
  2. 監査等委員会設置会社

 1.は、要するに主として上場会社を指します。

⑶ 本決定方針の内容

 本決定方針に定めるべき内容は以下のとおりです(改正法§361Ⅶ,改正施行規則§98の5)。

①固定報酬 取締役(監査等委員である取締役を除く。以下この条において同じ。)の個人別の報酬等(次号に規定する業績連動報酬等及び第3号に規定する非金銭報酬等のいずれでもないものに限る。)の額又はその算定方法の決定に関する方針
②業績連動報酬等 取締役の個人別の報酬等のうち、利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標その他の当該株式会社又はその関係会社(計算規則§2Ⅲ㉕に規定する関係会社をいう。)の業績を示す指標(以下この号及び施行規則§121⑤の2において「業績指標」という。)を基礎としてその額又は数が算定される報酬等(以下この条並びに施行規則§121④及び⑤の2において「業績連動報酬等」という。)がある場合には、当該業績連動報酬等に係る業績指標の内容及び当該業績連動報酬等の額又は数の算定方法の決定に関する方針
③非金銭報酬等 取締役の個人別の報酬等のうち、金銭でないもの(募集株式又は募集新株予約権と引換えにする払込みに充てるための金銭を取締役の報酬等とする場合における当該募集株式又は募集新株予約権を含む。以下この条並びに施行規則§121④及び⑤の3において「非金銭報酬等」という。)がある場合には、当該非金銭報酬等の内容及び当該非金銭報酬等の額若しくは数又はその算定方法の決定に関する方針
④種類ごとの割合 報酬等の額、業績連動報酬等の額又は非金銭報酬等の額の取締役の個人別の報酬等の額に対する割合の決定に関する方針
⑤交付時期等 取締役に対し報酬等を与える時期又は条件の決定に関する方針
⑥決定の委任 取締役の個人別の報酬等の内容についての決定の全部又は一部を取締役その他の第三者に委任することとするときは、次に掲げる事項
イ 当該委任を受ける者の氏名又は当該株式会社における地位若しくは担当
ロ イの者に委任する権限の内容
ハ イの者によりロの権限が適切に行使されるようにするための措置を講ずることとするときは、その内容
⑦その他決定方法 取締役の個人別の報酬等の内容についての決定の方法(前号に掲げる事項を除く。)
⑧その他重要事項 前各号に掲げる事項のほか、取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する重要な事項

 上記事項の中には、幅のある規定ぶりのものもあるため、そういったものについては、実務担当者は、本決定方針にどのような記載を盛り込めばよいか、頭を悩ませることになるかと思います。

 この点、3月総会の上場会社等の準備が進むにつれ、検討資料が充実し、相場観が明らかになってくるかと思いますが、2020年11月現在では、他社の有価証券報告書の「役員の報酬等」の記載等が参考になります。EDINETの「書類検索」等から探してみてください。

 もっとも、究極的には、取締役の報酬等の内容が、取締役に対して適切な職務執行のインセンティブを付与する上で適切か否かを判断するに足る程度に、その決定手続等の透明性が図られているか否かという改正趣旨に立ち返って検討することになるでしょう。

⑷ 本決定方針の決定時期

 法務省民事局付によれば、本決定方針は施行後速やかに決定すれば足りるとのことですので、施行日である2021年3月1日時点で本決定方針が決定されていなかったとしても、直ちに違法になるわけではありません。したがって、施行後最初の取締役会で決議して決定することで問題ないと考えられます。

 もっとも、施行日以後も、本決定方針を決定せず、又は決定した本決定方針に違反して取締役の個人別の報酬等の内容を決定した場合には、当該決定は違法であり、無効となると解されるため、注意が必要です[1]


[1] 竹林俊憲『一問一答 令和元年改正会社法』(商事法務・2020年)78頁。

⑸ 決定の委任

 取締役会は、本決定方針の決定を取締役に委任することはできません。もっとも、例えば、任意の報酬委員会を設置し、同委員会が本決定方針に係る検討及び素案の作成等を行い、その結果を取締役会に報告し、それを踏まえ、取締役会が本決定方針を決定するといった工夫をすることは否定されないと考えられています[1]


[1] 竹林俊憲『一問一答 令和元年改正会社法』(商事法務・2020年)82~83頁。

⑹ 本決定方針の決定等を見込む報酬等議案を株主総会に提出した場合

 取締役の報酬等に関する事項を定め、又はこれを改定する議案を株主総会に提出した取締役は、当該議案による定めに基づき、本決定方針を決定・変更することが想定される場合には、当該株主総会において当該報酬等を相当とする理由を説明する際に、当該議案の可決後に取締役会において決定・変更することが想定されている本決定方針の内容についても必要な説明をすることが求められると考えられています(改正法§361Ⅳ参照)[1]


[1] 竹林俊憲『一問一答 令和元年改正会社法』(商事法務・2020年)79~80頁。

公開会社における事業報告の開示事項の充実化

⑴ 概説

 現行法下においても、公開会社においては、役員報酬等に関する事項を事業報告で開示することが義務付けられていますが(現行施行規則§121Ⅳ等)、当該開示内容は、報酬等の内容が役員に対するインセンティブ付与の観点から適切に定められているかを判断する上で不十分です。

 そこで、本改正により、役員報酬等に関する事項について、公開会社における事業報告による情報開示に関する規定の充実が図られました。

⑵ 開示内容

 役員報酬等に関して事業報告で開示を行うべき具体的内容は次のとおりです(改正施行規則§121~123)。

報酬等の決定方針に関する事項(§121⑥,⑥の2) 報酬等の決定方針等を定めているときは、次に掲げる事項
イ 当該方針の決定の方法
ロ 当該方針の内容の概要
ハ 当該事業年度に係る取締役(監査等委員である取締役を除き、指名委員会等設置会社にあっては、執行役等)の個人別の報酬等の内容が当該方針に沿うものであると取締役会(指名委員会等設置会社にあっては、報酬委員会)が判断した理由
各会社役員の報酬等の額又はその算定方法に係る決定に関する方針(上記の方針を除く。)を定めているときは、当該方針の決定の方法及びその方針の内容の概要
株主総会の決議に関する事項(§121⑤の4) ・報酬等についての株主総会の決議の日
・当該決議の内容の概要
・当該定めに係る会社役員の員数[1]
取締役会の決議による報酬等の決定の委任に関する事項(§121⑥の3) 取締役会設置会社(指名委員会等設置会社を除く。)である場合において、取締役会から委任を受けた取締役その他の第三者が当該事業年度に係る取締役(監査等委員である取締役を除く。)の個人別の報酬等の内容の全部又は一部を決定したときは、その旨及び次に掲げる事項
イ 当該委任を受けた者の氏名並びに当該内容を決定した日における当該株式会社における地位及び担当
ロ イの者に委任された権限の内容
ハ イの者にロの権限を委任した理由
ニ イの者によりロの権限が適切に行使されるようにするための措置を講じた場合にあっては、その内容
業績連動報酬等に関する事項(§121⑤の2) 役員報酬等の全部又は一部が業績連動報酬等である場合には、次に掲げる事項
イ 当該業績連動報酬等の額又は数の算定の基礎として選定した業績指標の内容及び当該業績指標を選定した理由
ロ 当該業績連動報酬等の額又は数の算定方法
ハ 当該業績連動報酬等の額又は数の算定に用いたイの業績指標の数値
非金銭報酬等に関する事項(§121⑤の3) 役員報酬等の全部又は一部が非金銭報酬等である場合には、当該非金銭報酬等の内容
職務執行の対価として交付した株式に関する事項(§122Ⅰ②) 当該事業年度中に当該株式会社の会社役員(当該事業年度の末日において在任している者に限る。)に対して当該株式会社が交付した当該株式会社の株式(職務執行の対価として交付したものに限り、当該株式会社が会社役員に対して職務執行の対価として募集株式と引換えにする払込みに充てるための金銭を交付した場合において、当該金銭の払込みと引換えに当該株式会社の株式を交付したときにおける当該株式を含む。)があるときは、次に掲げる者の区分ごとの株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)及び株式を有する者の人数
イ 当該株式会社の取締役(監査等委員である取締役及び社外役員を除き、執行役を含む。)
ロ 当該株式会社の社外取締役(監査等委員である取締役を除き、社外役員に限る。)
ハ 当該株式会社の監査等委員である取締役
ニ 当該株式会社の取締役(執行役を含む。)以外の会社役員
職務執行の対価として交付した新株予約権に関する事項(§123①) 現行法と同様
ただし、相殺構成も対象となることが明確化
報酬等の種類ごとの総額(§121④) 報酬等の総額(当該報酬等の全部又は一部が業績連動報酬等又は非金銭報酬等である場合には、業績連動報酬等の総額、非金銭報酬等の総額及びそれら以外の報酬等の総額。)

[1] 株主総会決議ではなく、定款に定められている場合はその内容の開示が必要となります。


 上記事項の中には、幅のある規定ぶりのものもあるため、そういったものについては、実務担当者は、事業報告にどのような記載を盛り込めばよいか、頭を悩ませることになるかと思います。

 この点、3月総会の上場会社等の準備が進むにつれ、検討資料が充実し、相場観が明らかになってくるかと思いますが、2020年11月現在では、他社の有価証券報告書の「役員の報酬等」の記載等が参考になります。EDINETの「書類検索」等から探してみてください。

 もっとも、究極的には、取締役の報酬等の内容が、取締役に対して適切な職務執行のインセンティブを付与する上で適切か否かを判断するに足る程度に、その決定手続等の透明性が図られているか否かという改正趣旨に立ち返って検討することになるでしょう。

株主総会における報酬等議案に関する説明義務の範囲拡張

 本改正により、株主総会において、不確定額報酬や非金銭報酬に関する議案のみならず、確定額報酬に関する議案の内容を定め、又は改定する場合にも、その報酬等議案を「相当とする理由」の説明を求めることとされました(改正法§361Ⅳ)。

 「相当とする理由」の説明としては、当該報酬等議案に係る報酬等を定めることが必要かつ合理的であることについて、株主が理解することができる説明を行うことが求められます[1]

 なお、「相当とする理由」は、株主総会参考書類の記載事項となっています(改正施行規則§73Ⅰ②)。


[1] 竹林俊憲『一問一答 令和元年改正会社法』(商事法務・2020年)87頁。

株式報酬等の株主総会決議に関する定めの明確化

⑴ 改正の概要

 現行法でも、取締役の報酬等として当該株式会社の株式又は新株予約権を付与しようとする場合には、定款又は株主総会の決議により、一定事項を定めることが義務付けられていますが、法文上、「報酬等のうち金銭でないもの…の具体的な内容」と規定されているに過ぎず、不明確でした(現行法§361Ⅰ③)。

 そこで、改正法においては、既存株主が株式報酬等の付与による持株比率の低下・希釈化の影響や株式報酬等を付与する必要性等を判断できるようにするという観点から明確化を図り、下表記載の事項を定めなければならないこととしました(改正法§361Ⅰ③・④,改正施行規則§98の2,3,4)。

 また、「現物出資構成」[1]や「相殺構成」[2]によって、当該株式会社の募集株式又は募集新株予約権と引換えにする払込みに充てるための金銭を取締役の報酬等とすることが実務上しばしば行われていますが、この場合も同様に、既存株主の判断資料充実の必要が認められるため、定款又は株主総会の決議によって定めるべき事項が明定されるに至りました(改正法§361Ⅰ⑤,改正施行規則§98の3,4)[3]

報酬等の内容 株主総会決議等事項
1⃣ 株式 ㋐ 当該募集株式の数(種類株式発行会社にあっては,募集株式の種類及び種類ごとの数)の上限
㋑ 一定の事由が生ずるまで当該募集株式を他人に譲り渡さないことを取締役に約させることとするときは、その旨及び当該一定の事由の概要
㋒ 一定の事由が生じたことを条件として当該募集株式を当該株式会社に無償で譲り渡すことを取締役に約させることとするときは、その旨及び当該一定の事由の概要
㋓ ㋑・㋒に掲げる事項のほか、取締役に対して当該募集株式を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要
募集株式と引換えにする払込みに充てるための金銭 ㋐ 取締役が引き受ける当該募集株式の数(種類株式発行会社にあっては,募集株式の種類及び種類ごとの数)の上限
㋑ 一定の事由が生ずるまで当該募集株式を他人に譲り渡さないことを取締役に約させることとするときは、その旨及び当該一定の事由の概要
㋒ 一定の事由が生じたことを条件として当該募集株式を当該株式会社に無償で譲り渡すことを取締役に約させることとするときは、その旨及び当該一定の事由の概要
㋓ ㋑・㋒に掲げる事項のほか、取締役に対して当該募集株式と引換えにする払込みに充てるための金銭を交付する条件又は取締役に対して当該募集株式を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要
2⃣ 新株予約権 ㋐ 取締役が引き受ける当該募集新株予約権の数の上限
㋑ 法§236Ⅰ①~④までに掲げる事項
㋒ 一定の資格を有する者が当該募集新株予約権を行使することができることとするときは、その旨及び当該一定の資格の内容の概要
㋓ ㋑・㋒に掲げる事項のほか、当該募集新株予約権の行使の条件を定めるときは、その条件の概要
㋔ 法§236Ⅰ⑥に掲げる事項
㋕ 法§236Ⅰ⑦に掲げる事項の内容の概要
㋖ 取締役に対して当該募集新株予約権を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要
募集新株予約権と引換えにする払込みに充てるための金銭

 上記事項の中には、幅のある規定ぶりのものもあるため、そういったものについては、実務担当者は、定款や株主総会の報酬等議案にどのような記載を盛り込めばよいか、頭を悩ませることになるかと思います。

 そういったときは、既存株主が株式報酬等の付与による持株比率の低下・希釈化の影響や株式報酬等を付与する必要性等を判断する上で必要十分な記載となっているか否かという改正趣旨に立ち返って考えてみることが検討の出発点となるでしょう。


[1] 募集株式と引換えにする払込みに充てるための金銭を取締役の報酬等とした上で、取締役に募集株式を割り当て、引受人となった取締役をして株式会社に対する報酬支払請求権をもって現物出資財産として給付させることによって株式の発行等をする方法のこと。

[2] 募集新株予約権と引換えにする払込みに充てるための金銭を取締役の報酬等とした上で、取締役に募集新株予約権を割り当て、引受人となった取締役をして株式会社に対する報酬支払請求権をもって相殺させることによって新株予約権を発行する方法のこと。

[3] 執行役についても、同様の規定が整備されています(改正法§409Ⅲ)。

⑵ 既存の報酬枠の有効性

 改正法の施行前に報酬等として株式等を取締役に付与するために、報酬枠の株主総会決議を経ているが、改正法の施行後に当該株式等が付与される場合において、当該決議の内容が改正法により定められた事項を充足していないときは、改めて株主総会決議を採り直す必要があるかという点が問題となります。

 この点について、2020年11月現在、定説は存在しておらず、以下のような見解が提唱されています。

A説

改めて株主総会決議を採り直す必要がある[1]

B説

報酬等として株式を受け取ることができる権利が具体的に発生しているといえるような株主総会決議(やそれに基づく取締役会決議)が改正法の施行前にされていれば、株主総会決議を改めて取得することなく、株式報酬を支給できる[2]


[1] 塚本英巨「令和元年改正会社法の実務ポイント」旬刊経理情報1566号9頁以下。

[2] 神田秀樹ほか「令和元年改正会社法の考え方」旬刊商事法務2230号6頁以下、柴田寛子「令和元年会社法改正の意義(3)実務家コメント取締役の報酬等に関する会社法改正」旬刊商事法務2232号28頁。

株式報酬等としての株式発行等の手続

⑴ 取締役報酬等として株式発行・自己株式処分を行う場合

 現行法上、株式会社は、その発行する株式又は処分する自己株式を引き受ける者を募集しようとする場合は、常に募集株式の払込金額又はその算定方法を定めなければならないこととされています(現行法§199Ⅰ②)。そのため、取締役の報酬等として株式発行等を行うにあたっては、「現物出資構成」を利用するという技巧的な手段が採られていました。

 このことに対しては、手段として迂遠であり、また、かかる手段によって株式発行等を行った場合、資本金等の取扱いが明確でないと指摘されていたようです。

 そこで、改正法では、上場会社取締役の報酬等として株式発行等をする場合には、募集株式と引換えにする金銭の払込み等を要しないこととされました(改正法§202の2Ⅰ・Ⅱ等)[1]

 そして、この場合、定款又は株主総会決議において、払込金額等や払込期日を定める代わりに、以下の事項を定めなければならないとしています(改正法§202の2Ⅰ)。

  1. 取締役の報酬等として募集株式の発行等を行うものであり、募集株式と引換えにする金銭の払込み等を要しない旨
  2. 募集株式の割当日

 なお、募集株式と引換えにする金銭の払込み等が不要となったのは、上場会社だけという点には注意してください。

 また、その対象はあくまで当該株式会社の取締役の報酬等として株式を付与する場合であり、取締役でない従業員、子会社の役員・従業員、アドバイザー、その他第三者の報酬等として株式を付与する場合には妥当しないことにも注意する必要があります[2]


[1] 指名委員会等設置会社において執行役又は取締役に対して報酬等として株式を付与する場合についても、同様の規律が設けられています(改正法§202の2Ⅲ,§205Ⅴ)。

[2] 竹林俊憲『一問一答 令和元年改正会社法』(商事法務・2020年)88~89頁。

⑵ 取締役報酬等として新株予約権を発行する場合

 現行法上、新株予約権についても、常にその行使に際して金銭の払込み等をしなければならないこととされています(現行法§236Ⅰ②・③)。

 そこで、実務上、取締役の報酬等として新株予約権を発行する場合には、行使価額を1円とすることなどにより、実質的に行使に際して金銭の払込み等を要しない新株予約権を発行するという技巧的な手段が採られてきました。

 もっとも、この場合には、新株予約権の発行と引換えに取締役によって役務が提供され、債権者や既存株主に損害を生じさせることがない以上、行使に際して金銭の払込み等を要求する必要性は特にありません。

 そこで、改正法では、取締役報酬等として株式発行等を行う場合と同様に、上場会社は、取締役報酬等として又は取締役報酬等をもってする払込みと引換えに新株予約権を発行する場合には、当該新株予約権行使に際して金銭の払込み又は現物出資財産の給付を要しないこととしています(改正法§236Ⅲ①)[1]

 そして、この場合、以下の事項を当該新株予約権の内容としなければならず、これらの事項を定めたときは、その定めを登記しなければなりません(改正法§236Ⅲ柱書後段,§911Ⅲ⑫ハ)。

  1. 当該新株予約権の行使に際してする金銭の払込み又は改正法§236Ⅰ③の財産の給付を要しない旨
  2. 取締役(取締役であった者を含む。)以外の者は、当該新株予約権を行使することができない旨

 なお、新株予約権についても、この規律が及ぶのは、上場会社のみであり、また、取締役報酬等に係る場合に限定されていることに注意が必要です。


[1] 指名委員会等設置会社において執行役又は取締役に対して報酬等として新株予約権を発行する場合についても、同様の規律が設けられています(改正法§236Ⅳ)。

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